重要なのは「こころの知能指数」

つぎのようなゴールマンの説明で、もう少し具体的につかめるのではないか。

「知能を狭義にとらえたのでは、『子供たちが人生をよりよく生きていくために大人は何をしてやれるか』、あるいは『IQの高い人が必ずしも成功せず平均的なIQの人が大成功したりする背景にはどのような要因が働いているのだろうか』といった疑問はわいてこない。人間の能力の差は、自制、熱意、忍耐、意欲などを含めたこころの知能指数(EQ)による、と私は考えている。EQは、教育可能だ。EQを高めることによって、子供たちは持って生まれたIQをより豊かに発揮することができる。
(中略)
こころの知能指数とは、自分自身を動機づけ、挫折してもしぶとくがんばれる能力のことだ。衝動をコントロールし、快楽をがまんできる能力のことだ。自分の気分をうまく整え、感情の乱れに思考力を阻害されない能力のことだ。他人に共感でき、希望を維持できる能力のことだ。」[ゴールマン 土屋京子(訳)『EQ こころの知能指数』講談社]

勉強ができるようになるには知的能力を高めることが大事だと言われ、知的能力の開発を重視した早期教育が盛んに行われているが、たとえ一時的に効果がみられたとしても、長い目で見るとほとんど効果がみられなかったりする。

早期教育では成績に差がつかない

たとえば、みんなより早い時期から勉強して、知識をたくさん詰め込めば、友だちがまだ字が読めないのに、読めるどころか字が書けたり、友だちが計算などできないのに足し算や引き算ができたりする。

でも、多くの場合、いずれ周囲のみんなも字を読んだり書いたりできるようになり、計算もできるようになる。そうなると、結局みんなに追いつかれ、差がなくなってしまう。差がなくなるだけならよいが、早い時期から勉強をする代わりに、遊びや家庭のしつけを通して忍耐力や集中力、我慢する力などを身につけてきた子に学力で逆転され、さらには差をつけられてしまうことさえある。

これはけっして幼児期だけの問題ではない。小学生であろうと中学生や高校生であろうと、このような非認知能力を高めないとなかなか勉強ができるようにはならない。

いくら知的能力が高くても、やる気や忍耐力がなければ学力は向上せず、その成果としての成績も良くならないだろう。たとえば、宿題をやったり復習をしたりしていて、わからないことが多くて嫌になるようなとき、何とかわかるようになりたいと粘る子と、もう嫌だと投げ出す子では、その後の成績に大きな差がつくはずだ。

母は居間で息子を叱る
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