ソフトバンクグループの創業者・孫正義氏は、どんな経営者なのか。ベンチャーキャピタリスト古我知史さんの『いずれ起業したいな、と思っているきみに 17歳からのスタートアップの授業 アントレプレナー列伝』(BOW BOOKS)より、一部を紹介する――。(第2回/全4回)

バイトがあきれて辞めるほどの「大ホラ吹き」

孫正義 Son Masayoshi
1957~佐賀県生まれ。ソフトバンクグループ株式会社代表取締役。1976年高校を中退して渡米。’80年カリフォルニア大学バークリー校を卒業。’81年、日本ソフトバンク(現ソフトバンクグループ)設立。Yahoo! BB、ボーダフォン、アーム等々、多額の買収による事業の多角化による経営手法が注目されている。
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長
写真=時事通信フォト
4年ぶりに開催された「Softbank World 2023」で基調講演をするソフトバンクグループの孫正義会長兼社長(2023年10月4日、東京都港区のザ・プリンスパークタワー東京)

アントレプレナーの「原始的人格」のうち、パラノイア系(偏執症)の代表例として、掃除機で有名なダイソンをつくったジェームズ・ダイソンをご紹介した。次に、もう一つの大きな傾向であるメガロマニア系(誇大妄想癖)の代表例として、ソフトバンクグループの孫正義を紹介しよう。

いまや1兆円を超す営業利益をたたき出す実績をつくった大企業のソフトバンクグループだが、そのソフトバンク(文字どおりビデオカセット方式だったパソコンソフトの輸入販売業から始まった)がまだ売上数百万円で、社員と言えば数人のアルバイトスタッフしかいなかったときに、孫さんがリンゴか何かの木箱の上に乗って、「将来は、一丁二丁と、豆腐を数えるように売上を数える会社になるんだ」と演説し、聞いていたスタッフが、この人、頭がおかしいのかとあきれて全員辞めてしまったという逸話は有名だ。

まさか、その数十年後、本当に、売上どころか、利益を一兆、二兆と数える会社になるとは。そのときのスタッフは、いま、どう感じているだろうか?

広島の小さな洋装店もGAPを超えた

まさに、メガロマニア、誇大妄想癖の極地とも言えるが、実は、これ、孫さんに限らない。ファーストリテイリング、つまりユニクロの柳井正さんも、第二創業者ながら、広島の商店街のどこにでもあるような小さな洋装店を引き継いでまもなく、GAPを超えると言っていたし、日本電産(2023年にニデックと改名)という超有名なモーターの会社を創業した(1973年)永守重信さんも、全く売上が立ってないときに1000億超えると言い、1000億を超えようとするときに1兆円の企業になると言い、すべて実現してきた。

ちなみに、ユニクロのファーストリテイリングは、現在、世界のアパレル製造小売り業売上ランキングで第3位、GAPは、第4位。時価総額では、ZARAのInditexに次ぐ世界第2位11兆円強で、1兆円にも満たないGAPを大きく引き離している(2023年9月末現在)。

ただの誇大妄想癖、大ボラ吹きではない。実際にそれを実現してしまうのが、ビッグなアントレプレナーだ。