世界で最も売れているダイソンのサイクロン式掃除機はどうやって生まれたのか。ベンチャーキャピタリスト古我知史さんの『いずれ起業したいな、と思っているきみに 17歳からのスタートアップの授業 アントレプレナー列伝』(BOW BOOKS)より、一部を紹介する――。(第1回/全4回)

世界初のサイクロン式掃除機を開発

ジェームズ・ダイソン James Dyson
1947~イギリス、ノーフォーク州生まれ。ダイソン創業者・最高技術責任者。ロイヤルカレッジ・オブ・アート卒。1984年掃除機のための新技術・デュアルサイクロン方式を開発。’86年この新技術を搭載した「Gフォース」が世界に先駆けて日本で発売された。’92年ダイソン社を設立し、自ら掃除機の製造・販売に乗り出す。
ジェームズ・ダイソン氏(写真=Royal Society uploader/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)
ジェームズ・ダイソン氏(写真=Royal Society uploader/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

ジェームズ・ダイソンの名を知らなくても、ダイソンの掃除機は見たことがあるのではないだろうか。家で使っているという人もいるかもしれない。近年は、羽根のない扇風機でも有名だ。ドライヤーを持っている人もいるかもしれない。

けれどもダイソンと言ったら、まず、掃除機。サイクロン式の掃除機を世界ではじめて開発・製造したことで知られる。このダイソンというブランドをつくったのが、ジェームズ・ダイソン。1947年生まれで、70代のいまも現役だ。

「デザインエンジニア」を名乗り続ける

かれは、自分のことをCEOとかCOO、日本語で言うと、会長、社長とは絶対呼ばせない。一度もそういうタイトル(肩書き)をつけたことがない。いまも一人のエンジニアとして、創業者兼チーフエンジニアというタイトルをつけている。チーフエンジニアの仕事は、ダイソン社のデザインエンジニアたちのチーフとして、プレイイングマネジャーをすること。つまり、マネジメントをしながらも、ひとりのプレイヤー、デザインエンジニアであるということだ。

ダイソンのデザインエンジニアとは、デザインすることでエンジニアリングする人、という意味なので、実は、通常のエンジニアとは異なる。むしろ、発想の仕方は、エンジニアの真逆だ。

普通はエンジニアの人というのは、設計図に落とし込んでものをつくるのだが、かれの場合は、設計図を書く前に直感で物事を組み立てていく。組み立てていってから、それをもう一度エンジニアリング、つまり、設計図に落とし込む。つまり、設計図が先なのが通常のエンジニア、設計図はあとなのがデザインエンジニア、というわけだ。