なぜアマゾンは世界最大のECサイトになったのか。読売新聞記者の小林泰明さんは「最大の競争力は、ほかのサイトよりも商品が安く、かつ早く届くところだ。ただそのサービスは、出店者への苛烈な要求によって成り立っている」という――。(第1回)

※本稿は、小林泰明『国家は巨大ITに勝てるのか』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

アマゾンのロゴがプリントされた段ボール箱
写真=iStock.com/AdrianHancu
※写真はイメージです

出店者が行っている過酷な低価格競争

数あるネット通販モールの中で、アマゾンの低価格競争は最も過酷と言われる。

日本のネット通販関係者によると、アマゾンの商品画面は、同じ商品を出す出店者の価格情報が1ページに集められ、縦長で一覧できる特徴がある。その際、表示される順番は、出店者の価格や配送の速さなどをアマゾンが評価して決め、最上位の評価を受けた出店者が利用者の「カートボックス」に表示される。

利用者は表示されたものをそのまま買いやすい。そのため、出店者はカートボックスの獲得を巡って激烈な競争を繰り広げる。出店者によると、この競争には「限界ぎりぎりまで値段を下げ、利益を落とさないと勝てない」ため、低価格に設定せざるを得ない。

米議会の調査によると、アマゾンは競合他社のサイトを定期的に調べ、アマゾンの価格が競合サイトより大幅に高い場合、出店者に値下げ圧力をかけているという。常に最低価格をつけられるような「自動価格設定ツール」の利用も勧めているといい、米出店者団体からは「アマゾンは出店者が設定する価格の上限と下限をコントロールし、最終的な価格決定権をもつ」との声も上がる。

売上の30%以上を支払う

カートボックスを取るには低価格だけでも十分ではない。配送が遅いと上位に表示されないため、手数料を払い、アマゾンの物流サービスを利用する出店者が多い。

そうした条件をクリアしても、さらに難関が待ち受ける。出店者は商品によってはアマゾン本体とも競合する。巨大な購買力をもつアマゾンは商品を安く仕入れることができるため、「その商品を作っているメーカー以外、アマゾンに勝つのは無理」(出店者)という。

近年、アマゾンは検索結果などに表示する広告にも力を入れており、販売に関わる手数料や広告費を合わせると、売上の30%以上をアマゾンに支払う例もあるという。

「カートボックスを取るには、アマゾンに多くの手数料を払うなど、結局、出店者側が多くの費用を負担しなければならない仕組みになっている」
「出店者側は心の中ではアマゾンに依存せずに商売したいと思っているが、集客力が強く、速く配送できるので、アマゾンを選ばざるを得ない」

消費者にはうれしい低価格は、出店者たちが身を削って絞り出しているのだ。