人生を変えるノートの話だ。20代後半のこと、コクヨトップの黒田英邦さんは360度評価で部下から痛烈なコメントをもらってしまう。「英邦さんは、数字に弱いです」。ショックを受けた黒田さんだが、当時の社外取締役に「たいていの経営者はそうですよ。ノートに『面グラフ』を書いてみたらどうか」と勧められる。その後、一生の付き合いとなる「面グラフ」とは一体いかなるものか――。

いつでもどこでも「A3の方眼ノート」を持ち歩く

平日、7時半から8時には出社することが多いです。そこから始業までの1時間から1時間半は一人きりの集中タイム。買ってきたコーヒーを飲みながら、今日1日やるべき仕事の準備をします。次に、1週間、1カ月、3カ月それぞれのスパンで達成すべき目標やタスクを確認します。

僕はもともと1日24時間を緻密に管理するタイプではありません。ただ唯一、欠かせないのがこの朝のルーティンです。経営者の役目を果たすための「生命線」とも言えるでしょう。社長室のスタッフにも、この時間には会議などの予定を入れないよう頼んでいます。

経営者は社内の誰よりも、広い視野でものごとを捉える必要があります。1つの意思決定にも社員、お客様、社会、株主と4者の視点に立ち、どの立場の人にも有益かどうかを考慮しなければいけません。そのために重要なのが、朝の一人きりの集中タイムなのです。

以前から深くものを考えるときは必ず、A3サイズの方眼ノート(レポートパッド)を取り出します。大きくてかさばりますが、いつもリュックに入れて持ち歩いています。上記の4者の視点でものごとを考える際には、どうしてもA3サイズの大きい紙が必要だからです。また大きな紙を使うことで、自分の視野を広げる訓練にもなります。

黒田英邦(くろだ・ひでくに)1976年、兵庫県芦屋市出身。甲南大学、米ルイス&クラークカレッジ卒。2001年コクヨ入社。コクヨファニチャー社長、コクヨ専務などを経て2015年より現職。曽祖父は創業者の黒田善太郎氏。
撮影=鈴木啓介
黒田英邦(くろだ・ひでくに)1976年、兵庫県芦屋市出身。甲南大学、米ルイス&クラークカレッジ卒。2001年コクヨ入社。コクヨファニチャー社長、コクヨ専務などを経て2015年より現職。曽祖父は創業者の黒田善太郎氏。

まずノートの真ん中に、これから考えるテーマを書きます。そこから放射状に、考慮すべき事項や情報、重要な数字をどんどん書き込んでいきます。少し前までは、このA3の方眼ノートをすべての会議や打合せに持ち込んで、議論の内容をいちいち図解にして、参加者全員で情報共有しながら、話し合いを行っていました。

ちなみに、A3の方眼ノートに書くときは、水性のサインペンを使います。太い線で書くと、見た目にわかりやすく、頭にも定着しやすい気がします。使う色は基本的に黒か赤で、カラーペンはたまに使う程度です。

僕のコクヨでのキャリアと、A3の方眼ノートは切っても切り離せません。たとえば、2021年に東京品川オフィスを改装してオープンした実験的なオフィス「THE CAMPUS」事業の立ち上げも、会社の長期ビジョン構想を練る際も、A3の方眼ノートに手書きした図やグラフから着想を得て、プランを練り上げてきました。

文房具メーカーの社長なら、他にいくらでも持ちやすくて格好いいメモ帳があるでしょう、と言われるかもしれません。それでもなぜ、A3の方眼ノートにこだわるのか――。その背景には、僕が昔から抱えてきた“数字コンプレックス”がありました。