「体温が下がった日=妊娠可能日」の根拠はない

「ガクンと下がった日が妊娠可能日」「大きく下がる月は妊娠しやすい」などさまざまな俗説もありますが、いずれも根拠はありません。体温が下がった日と排卵日は何日もずれることがありますし、妊娠しやすい卵子かどうかは基礎体温からは読み取れません。むしろ、そうした細かいことに一喜一憂したり、特別な日を逃してはならないという強迫観念を持つことがストレスとなり、精神的に疲労してしまう可能性があります。

医師にかかっている患者さんにとっては、基礎体温の計測はメリットよりデメリットのほうが大きいように思われます。もともと基礎体温というものは、黄体ホルモンによるわずかな体温の差を感知するもので、日常の活動のほうが大きな体温変化をもたらします。起き上がらずとも、少しでも身体を動かせば変わってしまうくらい微妙なものです。夜中にトイレに行ったり、エアコンをつけたり、鼻が詰まって口を開けて寝たりした場合も変化する可能性があります。

一般不妊治療とは

一般不妊治療とは、「タイミング法」と「人工授精」を指す言葉です。不妊の基本的な検査によって異常が見つけられなかった場合は、簡単なことで妊娠する可能性も残るので、もっともシンプルな方法であるタイミング法から始めて、それで妊娠しなかったら、徐々に人工授精、体外受精と「ステップアップ」をしていくのが不妊治療の基本です。

ですが今は、年齢が高いためにこの段階を省略し、すぐに体外受精を行う方も増えています。それだけ余裕のないケースが多いということです。とくに、高齢妊娠の方が多い施設では、タイミング法で妊娠する人は非常に少ないのが現状です。浅田のクリニックも高齢の方が多いため、妊娠できた人のうちタイミング法で妊娠した人は全体のうちわずか2%しかいません。

妊娠検査薬を手にソファに座っている女性の手元
写真=iStock.com/brizmaker
※写真はイメージです

年齢に余裕のあるカップルはタイミング法から

しかし一般不妊治療は、『不妊治療を考えたら読む本最新版〉』の第5章で紹介する体外受精などに較べてお金もかからない簡単な方法なので、それで妊娠できる可能性もあるのなら、年齢的に余裕のあるカップルは試してみる価値はあります。

河合がこれまで取材をしてきた実感から言えば、マスコミでは高度な不妊治療ばかりが注目されていますが、じつは、タイミング法を行うだけでパッと妊娠している人もけっこういるように思います。ただし、一般不妊治療で妊娠するカップルのほとんどは、治療を始めてまもなく妊娠します。なかなか妊娠しないままいつまでも一般不妊治療を続けることは、時間の浪費につながってしまいます。