マラソンシーズンの始まる秋から冬は各シューズブランドが特に販促に力を入れる時期だ。ナイキに追いつき追い越せと他社は高性能の厚底シューズを繰り出す。そうした中、ランニング部門を2021年に立ち上げ、履き替える選手が続出している世界3位のメーカー社長にスポーツライターの酒井政人さんがインタビューした――。
プーマジャパン・萩尾孝平社長
写真提供=プーマジャパン
プーマジャパン・萩尾孝平社長

厚底シューズ戦争に世界3位が本格参入

今年正月の箱根駅伝、突如として現れたブランドがプーマだ。55年ぶりに出場した立教大の選手たちが同社のユニフォームを着用。プーマのシューズを履く選手が2年前は0人(前年1人)だったが、一気に7人に急増したのだ。

プーマといえばサッカーのイメージだが、近年はとみに9人組のグループNiziUやSnow Manとのコラボも注目されており、タウンユースとしての人気も上がっている。2022年度のスポーツメーカーとしての売り上げは世界3位。ナイキとアディダスを追いかけている。

そんな中、2021年からは「ランニング」に本格参入。グローバル全体でサッカー、ゴルフ、と並ぶ重点投資カテゴリーに位置づけている。

「プーマジャパンとして2022年は設立以来、過去最高のビジネスを叩き出すことができました。2023年も順調に来ています。グローバルの方は上半期の業績が2ケタ成長を遂げており、それを上回るかたちでプーマジャパンも成長しています」

そう話すのはプーマジャパンの萩尾孝平社長だ。「ランニングのプーマ」は今後、どんなビジネス戦略で臨んでいくのか。

「アディゼロ」を作った男の挑戦

萩尾氏は以前、アディダスに在籍していた。その頃「日本人ランナーを速くする」というコンセプトのもと生まれた「アディゼロ」の開発に携わった人物としてランニング業界では知られている。

2008年には同モデルを履いたハイレ・ゲブレセラシエ(エチオピア)が人類で初めてマラソン2時間4分の壁を突破。その後もアディダスを履いた選手が世界記録を塗り替えた。しかし、2017年にナイキがカーボンプレート搭載の厚底モデルを本格投入すると、状況が一変。現在、ランニングは“厚底シューズ”の時代を迎えている。主要メーカーも薄底から完全にシフトした。

萩尾氏は2012年にプーマへ“移籍”して、ラボのある米国ボストンを拠点にランニングシューズを統括する立場になった。当時、ナイキ厚底シューズをどう見ていたのかと聞くと、「他ブランドの商品に関しては、お答えする立場にありませんので、回答は差し控えさせていただきます」と厳しい表情に。

捲土けんど重来の思いを強くしたに違ない萩尾氏が率いるプーマはランニングシューズで勝負するために水面下で開発を進めた。そして独自のフォームテクノロジーである「NITRO FOAM」を完成させる。超軽量かつクッション性と反発性が優れたシューズだ。

その後も改善を重ねて性能を高め、短距離スパイク用のソールにも使われている高反発特殊素材を配合した最新のフォームは87%という業界最高水準のエネルギーリターンとなった、と胸を張る。競合2社のシューズと比較した結果、ランニング効率が上回ることがわかった。2024年にはさらに改良されたフォームを登場させるプランだ。