今年5月には、ジャールカンド州のある部族内で13人が加わる集団リンチが発生。標的となった60歳と58歳の夫婦が死亡した。タイムズ・オブ・インディア紙によると、部族の暦で新年を祝う3月のサルフル祭で事故が起き、少年2人が死亡。夫婦の「邪悪な力」が事故の元凶とされ、村の聖職者を含む13人で襲撃して私刑に処したという。地元警察は13人全員を逮捕した。

より多くの被害者を生んだ事例もある。2015年には、ジャールカンド州の州都・ラーンチーからわずか数キロに位置するマンダー地区で、女性5人が殺害された。インド紙のデカン・ヘラルドによると、女性たちは魔女の烙印を押され、「拷問され、殺害された」という。

呪術医が「魔女」をでっち上げる

NPO法人のインディア・スペンドは、先住民族のあいだに根強い黒魔術信仰に加え、貧弱な医療システムが魔女狩りを生んでいると指摘する。

ジャールカンド州では医療が受けられない人が多く、もともと薬剤師として働いていた偽の医者を名乗る人々から薬を手に入れている。人々は偽医者の薬に頼らざるを得ないのが現状だ。

偽医者の薬で対処できなくなると、人々は集落に住む「オジャ」と呼ばれる呪術医を頼る。ほとんどの家庭が自家用車を持てず、公共交通機関も発達していない現地で、最後の頼みの綱となっている。オジャは占いや儀式によって問題の原因を判断し、薬草などを使った超自然的な治療法を施す。

一方でオジャは、トラブルの種となることがある。ある村の長はインディア・スペンドに対し、オジャは高額な料金を家族に請求し、現金がない場合は現物での支払を要求すると明かしている。誰かを「魔女」と糾弾し、村内で騒乱を引き起こすケースも多いという。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、最も被害の多いジャールカンド州では、2021年だけで854件の被害例が発生している。うち32件が殺人事件に発展した。同州では貧困問題が深刻であり、人口に占める先住民族の割合も4人に1人と高い。魔女狩りは先住民族の多いインド中央部や東部の地域を中心に、いまでも例年発生している。

バッファローを連れて歩く女性がいるインドの光景
写真=iStock.com/Pandit Vivek
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無くならない魔女狩りに、州の裁判所が動く

相次ぐ事件を受け、ジャールカンド州高等裁判所は対策に本腰を入れ始めた。州政府に対し、魔女狩り防止のためにどのような措置を講じているか、詳細な報告書を提出するよう命じた。インド紙のデカン・ヘラルドなどが報じた。