このままでは先進国でも貧困層は増えていく

――日本のような先進国でも15%の世帯は相対的貧困状態(※2)にあり、「貧困問題」は存在します。豊かな国も例外ではないということでしょうか。

※2:「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」より

経済システムは富やリソースを底から吸い上げ、てっぺんへと送るように設計されています。ポンプのようなものです。おかげで、底は常に空っぽというか、ほとんど何も残っていない状態のままです。

その一方で、てっぺんにいるごく少数の人々はとてつもなく豊かになります。その下にいるたくさんの人には、全体の富のほんの小さなひとかけらしか残りません。これはどこでも見られる現象です。世界的に見てもそうだし、国内的に見てもそうです。

【図表1】世界の富の不平等な分布
上位10%の人が、世界の富の75%を所有(ちなみに、上位1%の人の富は世界の富の38%を占める)。残り25%の富を、90%の人々で分け合っている。(図版=世界不平等研究所「世界不平等レポート2022」より)

みんなが「豊かな国」と言うとき、いったいどういう国を指しているのでしょうか。国全体の富を人口で割った場合の富が大きいということですよね。国民すべての富を計算に入れるなら、1人あたりの富は非常に多い。でもてっぺんの10%の人々の1人あたりの富と、底辺の10%の人々の1人あたりの富を比べれば、その差は歴然です。経済のマシンは常にそうなるように動いているからです。

これは日本だけの問題ではありません。世界で最も金持ちの国、アメリカはどうでしょう。私たちはアメリカでもマイクロファイナンスのプログラムを運営していますが、それは生活していけない人たちがいるからです。国からの小切手だけに頼って生きている人たちがいるのです。

「福祉」が必要なのはシステムの欠陥

人々が生き延びるための月々の支援を行うプログラムがあるということは、その国には金を稼ぐことができず、自力では生活が立ちゆかない人々がいるということです。だから国が彼らの生活の面倒を見なければならないのです。

では、国の支援を必要としている人々がいるのはなぜでしょう?

本来ならどんな人にも自活能力はあるのですが、経済システムはそれを許さない。だから国民から税金を集め、そこから施しをするわけです。施しに頼った生活というのは、経済システムがもたらした病と言っていいでしょう。

すべての富がてっぺんに行ってしまうのは、マシンに欠陥があるということです。個人や企業に問題があるからではありません。企業はシステムが「金をつくれ」と言うのに従っているだけのこと。どれだけ金儲けができたかが成功のものさしになっているのです。

そのプロセスの中で、あなたは金儲けをひたすら続けることになる。そして多くの人々は置いてけぼりにされる。これがいまのマシンがもたらす結果なのです。

経済学者のモハマド・ユヌス博士(写真右)とインタビューを行う国際教育評論家・村田学氏
撮影=堀隆弘
経済学者のモハマド・ユヌス博士(写真右)とインタビューを行う国際教育評論家・村田学氏