今、金曜日恒例のイベントとなっているのが、首都圏反原発連合主催によるデモや抗議活動だ。主催者側の発表によれば、当初わずか300人程度だった参加者は回を追うごとに増加し、ついに20万人ほどの規模となった。抗議の舞台も首相官邸前から霞が関に群がる中央官庁周辺にまで広がった。
安保闘争以来ともいわれる規模になったにもかかわらず、この抗議活動は当初日本の主要メディアからほぼ無視されていた。なかには、原発反対側の声や動きを一切報道しないと言わんばかりの態度を貫こうとする全国紙まである。
私が普段から日本のメディアに対して抱いていた疑問はここまできて一気に膨らんでいた。『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』――。ニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファクラー氏の新著の書名はまさにこの疑問に対する明白な回答をくれた一冊といってよいだろう。
3.11震災発生後、ファクラー氏は被災地現場に赴いて、精力的に取材、米軍の「トモダチ作戦」の最前線である空母ロナルド・レーガンに乗り込んでいた。日本人記者が姿を現していない被災地現場を見た彼は、日本メディアで報道されなかったさまざまな事実を挙げ、原発事故報道については「日本の大手メディアは、当局の隠ぺい工作に加担することになってしまった」と痛烈に批判している。
震災後、日本のメディアも世界のメディアの多くも大規模な災害に対し、日本人が見せた落ち着きと秩序のよさを取り上げ、褒めたたえていた。ファクラー氏もこうした日本社会のよい面は取り上げた。しかし同時に、日本メディアが隠した被災地の生々しい様子も忠実に報じた。
取材で南相馬市役所に駆け付けたファクラー氏は職員たちから大歓迎されたという。日本人記者たちが全員避難して、2万5000人もの市民がいる被災地現場にひとりもいなかったのだ。「日本のジャーナリズムは全然駄目ですよ!」と憤った桜井勝延市長は、結局ユーチューブを使って世界に助けを求めようと決意した。記者が逃げたことには蓋をして、ユーチューブ情報を引用する形で南相馬市の困窮ぶりを報道した日本の新聞の醜態には、ファクラー氏も閉口したという。
のちに、ファクラー氏をはじめ、ニューヨーク・タイムズ東京支局の一連の3.11事故の報道は、ピュリツァー賞のファイナリストに選ばれた。日本発の情報がこれほど世界に注目されたのは「極めて珍しい」。この受賞はある意味では、日本の新聞に対するもっとも皮肉な批判と受け止めてよいだろう。今回の震災は東京電力の問題だけではなく、日本のメディアの恥部をもさらけ出したことが本書でよくわかる。タイトルで強調された「本当のこと」とは、イコール「都合の悪い真実」を指すのだと私は解釈している。