若い頃は、異業種交流会によく顔を出していた。視野が狭くならないように、いろいろな業界の人の話を聞く。刺激的な体験談や、全く新しい情報もあったし、決して無駄な時間だったとは思わない。

でも、ふり返ってみると、いい話を聞かせてくれた人との人間関係は、その後一向に広がらなかった。これでは、「もう、名刺交換はするな」と言われても反論できそうもない。

さて、本書は名刺交換そのものを否定しているわけではない。それを人間関係のテコとして最大限に活用する方法をわかりやすく説いている。実用性の高い本で、明日から試してみたい手法、心がけが満載だ。

「名刺について質問をしなさい」。交換の瞬間は、自分と相手との間に橋を架ける絶好のチャンスだという。名前の読み方がわからないときは、間違ってもいいから読んでみる。たしかに「何とお読みすればいいですか?」と尋ねるより、「○○さんとお読みしてよろしいのでしょうか?」のほうが、合っていても違っていても話は弾みそうだ。

肩書でよくわからないところがあれば、臆せずに確認するのがいいらしい。要は「あなたに興味を持っていますよ」というメッセージを発信することが大切なのだろう。そして、相手の肩書に対する「リスペクト」を言葉だけでなく、笑顔などの非言語表現でも表す。このあたりは日本におけるパフォーマンス学創設者である著者の真骨頂だ。

即日、感動と学習の礼状を出す。面会後のフォローの大切さも説かれている。ただし、とおりいっぺんの内容では、相手の心に残らない。必ずその人固有の内容を入れて。私は、学会でお会いした直後に著者から丁重な手書きの礼状を頂き、恐縮した覚えがある。目下の自分にまで……。著者の礼状グセは有名だそうだが、目先の損得でやっていないからこそ、人格的な信頼感につながるのだろう。

役に立つ肩書と役に立たない肩書の見分け方といった裏ワザ的内容も面白いが、本書全体にアクセントを与えているのは、何といっても、うっかり編集者Mさんの存在である。彼は本書のそこかしこに登場し、名刺交換の悪いお手本を見事に示してくれる。どうも実在の人物らしいが、なぜか憎めない、好感の持てるキャラクターだ。

習慣は第2の天性。このシンプルな格言も心に残った。これから先の限りない名刺交換。最初は面倒に感じても、よい習慣を続けていければ、だんだんサマになってくるだろうか。

習慣と言えば、私はもらってから1年経った名刺は原本を捨て、A4判の紙にまとめてコピーしたものを残すことにしている。10年以上前の異業種交流会の名刺を見直してみると……。何と誰一人、現在交流がないどころか、顔すら浮かばない! Mさんに共感できた理由がわかった。自分も似たようなものだったのだ。