今年ほどエネルギー問題が世間を騒がせている年もそう多くはないだろう。電力の元となる原子力・石油・石炭・天然ガスから始まり、再生可能エネルギーにまつわる課題や地球温暖化問題など、すべては人類の消費するエネルギーに帰着する。本書はこうした複雑な現況を生みだした「地球のからくり」に関する必要不可欠な情報を、科学と文明史を融合させた観点から、わかりやすく提供してくれる。

著者は石油の起源や堆積物中の有機物を研究する第一線の地球科学者で、前著『チェンジング・ブルー』(岩波書店)が講談社科学出版賞を受賞した経歴を持つ。本書は月刊誌「新潮45」の連載を基にしており、理系の基礎知識がなくとも無理なく読みすすめられる。最先端科学の切り口で、エネルギーにまつわる「地球のからくり」を見事に浮き彫りにしてゆく。

我々が毎日使う物質は、何らかの仕掛けを用いて地球から取り出しているものだ。たとえば、第二章「窒素固定の魔術」では、自然界ではほとんど化学反応しない大気中の窒素を、窒素肥料として大量に作り出す技術が描かれる。ここでは「高度な化学の知識や技術がビジネスと直結することによって、巨万の富が生まれ」たのだ(38ページ)。

もしこの窒素肥料がなかったら、世界の人口は今より30億人も少なかったと言う。一方、肥料を生産するには大量のエネルギーが必要で、「エネルギーなしに、便利な暮らしにありつけないどころか、そもそも地球上に暮らす人々の食糧を供給することさえままならない」状態にまでなってしまった(49ページ)。

紹介した章のほかにも魅力的な話が満載で、第1章「地球の定員」、第3章「エネルギーの現実」、第4章「化石燃料と文明」、第5章「人工燃料の時代」第6章「大論争の果て」、第7章「赤潮の地球」、第8章「石炭が輝いた時代」、第9章「燃える氷」、第10章「炭素は巡る」、第11章「第三の火」と続く。

著者はこれまで科学が歩んできた歴史にもぜひ着目してほしいと語る。原子力のみならず石炭や石油などのエネルギーが使われるようになった過程には、必ず政治・経済のドロドロした情勢が絡んでいる。豊かな生活を際限なく追い求めた人類の姿は、エネルギー問題で透かして見るとよくわかる。本書は単なる「地球のからくり」を知る教養本ではない。昔から科学は現実社会と決して無縁ではなかったのである。

最近、評者は『資源がわかればエネルギー問題が見える』(PHP新書)を刊行したが、著者と同じく地球科学を専門としながらも、本書とは切り口が異なる点が非常に興味深かった。すなわち、それほど現代のエネルギー問題は複雑で、多様な視点が必要なのである。読者の方々は単一の狭い視座に囚われることなく、いろいろと読み比べて千変万化する現実を的確に判断していただきたいと願う。