ロシアの衰退をまったく喜べない理由

中国の習近平国家主席の意識にも変化が見える。中国は当初、ロシアを支えることで自分たちの存在感を発揮しようとしていた。ロシアから海外の家電メーカーや自動車会社が撤退したが、そこに商品を供給したのは中国だった。いまやロシアは中国抜きに国民生活が成り立たないほどだ。

ロシアが倒れると、支援していた中国も困ると考えるのは早計である。実は習近平主席は、清朝時代の版図を回復させるという野望を抱いている。清朝時代の領地の一部は現在ロシア領となっているが、ロシアが混乱すればそれを取り戻そうと考えているのだ。

たとえば帰属をめぐってもめていた大ウスリー島は、真っ先に取り戻したい地域だ。同島については、04年に東西等面積に分割統治することで決着したが、ロシアが弱れば何らかの形で問題を蒸し返す。清朝末期にロシア帝国に脅されて割譲した沿海州もターゲットだ。

習近平はここ数カ月で、ロシアを全面支援する姿勢から、混乱に乗じて本来の野望を果たすことも辞さない両にらみの姿勢にシフトしてきた。“プーチン後”を見据えて動き始めているのだ。

日本政府は、ロシアが瓦解がかいする状況まで想定できていない。アメリカのキッシンジャー元国務長官は、ロシア政府が弱体化して群雄割拠状態になると国際社会のコントロールが効かず、手に負えなくなると指摘。暴君でもいいから国を1つにまとめる指導者が必要だと主張する。残念ながらキッシンジャーの期待通りにはならず、ロシアは大混乱期に入っていくだろう。日本は、ロシアの衰退と群雄割拠が、対岸の火事ではないことを強く自覚すべきだ。

(構成=村上 敬 写真=時事通信)
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