欧州諸国はロシアへのエネルギー依存を減らした

さらに、LNGや原油といったエネルギーは買い手が一変。22年9月にノルドストリーム2のパイプが爆破されて以来、大口顧客のドイツを筆頭に欧州諸国はロシアへのエネルギー依存を減らした。現在は中国やインドに加えて、支払い能力に乏しいグローバルサウスが中心顧客になっている。

さらに農産物も売れなくなった。安定供給が怪しいのだから、ほかから買えるならそちらを優先する。兵器から資源、農産物に至るまで、いまやメード・イン・ロシアの評価はガタ落ちだ。

2つ目は国外の仲間だ。23年5月25日、旧ソ連邦諸国で構成されるユーラシア経済同盟の首脳会議で、アルメニアのパシニャン首相が、アゼルバイジャンのアリエフ大統領をなじった。それも、プーチン大統領の目の前で、だ。

両国は、アルメニア系住民が多いナゴルノカラバフをめぐって長年係争してきた。2020年に戦火を交えたときには、アルメニアはロシアと、アゼルバイジャンはトルコと組んだ。勝利したのは、イスラエルやトルコの優れたドローンを使ったアゼルバイジャン陣営。アルメニア陣営は、イランのドローンを使ったが敗れ、ロシアの応援も不十分だった。

この敗戦で、アルメニアは「ロシアに依存しても、ナゴルノカラバフで暮らす仲間は守れない」と悟ったのだろう。これまでなら敵対する国の大統領と会議で同席しても、親分であるプーチン大統領の顔を立てて、大人しくしていたはずだ。しかし、今回はプーチン大統領を無視する、あるいはあてつけのようにして、その眼前で相手を罵った。ロシアべったりだったアルメニアとしては、異例の意思表明だった。

同じ会議に出席していたカザフスタンのトカエフ大統領の発言にも注目だ。親ロシアであるベラルーシに戦術核兵器を配備する動きについて、はっきりと反対を表明した。旧ソ連圏の亀裂が、浮き彫りになったわけだ。

ベラルーシに戦術核を置くのは愚かな選択だ。ベラルーシの西側にはリトアニアとポーランドがある。リトアニアとポーランドの両国の国境は、東側でベラルーシと接して、それぞれ西側もしくは北側でロシア領の飛び地カリーニングラードと接している。カリーニングラードは、核兵器と麻薬の売買が行われる闇マーケットで有名な街。ベラルーシに戦術核が置かれたことで、リトアニアとポーランドは核の脅威が増した。こうなれば、両国もためらわずに自国内に戦術核を置くだろう。緊張感は高まるばかりだ。

プーチン大統領が失った3つ目のものは、国内での権威だ。これまではプーチン大統領が国内を統率していたが、かつてロマノフ王朝が崩壊してロシア革命に至った時代をなぞるように、群雄割拠の様相を呈してきた。

ウクライナと国境を接するロシア国内では、現在「自由ロシア」軍など反プーチンを掲げる3つのパルチザンの軍事行動が活発化。パルチザンがウクライナと気脈を通じていることは間違いないが、メンバーはロシア人だ。