武装蜂起したワグネルがロシア国防省打倒を目指す

これまで前線でウクライナと戦っていた民兵組織ワグネルの創設者エフゴニー・プリゴジンも、セルゲイ・ショイグ国防相らをたびたび名指しで非難。そして23年6月23日には、武装蜂起したワグネルがロシア国防省打倒を目指す「ワグネルの乱」が生起した。

モスクワを目指して一気に駒を進めたワグネルの進撃は、共同創設者のドミトリー・ウトキンが主導し、それをロシア軍の航空宇宙軍司令官のセルゲイ・スロビキンが手引きしていた、と言われている。

プーチン大統領は、国家予算から年間1400億円くらいをワグネルに支払っていたことを認めた。つまりワグネルは、民兵ではなく国軍。指揮系統が別々という、国としてはおぞましい状態であったことが明らかになった。

国から活動費をもらっていたプリゴジン率いるワグネルは、なぜショイグ国防相率いるロシア軍と袂を分かったか。それは、プリゴジンがロシア国防省との契約を拒否したことで、23年7月以降の活動費の支給が途絶えることに決定したからだ。金の切れ目が縁の切れ目、ということだ。

現在ロシア国内には、ワグネルのような民兵組織が約30あると言われる。オリガルヒ(新興財閥)が自分の兵隊を持つほか、プリゴジンが非難したショイグ国防相も民兵を持つ。また、民兵組織こそいないものの、反政府活動で投獄されているアレクセイ・ナワリヌイも、ここにきて積極的に(おそらく牢獄から)メッセージを出しており、若者から支持を集めている。今後は民兵組織にナワリヌイを加えた「30+1」の群雄割拠で、離合集散を繰り返しつつ、プーチン政権の打倒に向かう公算が強い。

ロシア軍は統率が取れていない。将校の戦死が相次いでいるため、士官学校の卒業を前倒しして、経験のない指揮官を前線に送り出している。また装備や弾薬が足りず、インドやミャンマーなど1度輸出した先から買い戻す動きを見せている。プーチン大統領お得意のパフォーマンスで前線に出てくれば士気が高まるかもしれないが、その気配もない。これでは「30+1」の群雄割拠を抑え込むことはできない。

外貨、旧ソ連時代の仲間、国内の権威。これらを急速に失う様子を見て、ロシア寄りの姿勢を見せていたインドや中国も関係を見直し始めている。

23年5月に広島で開催されたG7には、インドのモディ首相が参加した。近年、G7+1のときはプーチン大統領が来ていたが、今後G7にプーチン大統領は未来永劫呼ばれない。その代わりというわけではないが、何食わぬ顔でやってきたのがモディ首相だった。

モディ首相は、いわばイソップ物語のコウモリで、対立する陣営の中間に立っていいとこ取りをしようとする。今回のウクライナ侵攻では、国際社会には同調せずにロシアから兵器や原油を買い続けていた。

しかし、ロシア製兵器のあまりの弱さに腰を抜かしたのだろう。インドと紛争が絶えないパキスタンはロシア以外から兵器を輸入している。軍備がロシア製中心ではパキスタンと事を構えるときに頼りない。そこで西側とのパイプを太くするために広島へやってきたのだ。