2017年、中国の習近平国家主席はロシアのプーチン大統領に「氷上シルクロード」構想を提示している。海上自衛隊幹部学校教官の石原敬浩2等海佐は「中国の海洋進出の野望は北極海にまで及んでいる」という――。

※本稿は、石原敬浩『北極海 世界争奪戦が始まった』(PHP新書)の一部を編集したものです。

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「一帯一路」を北極圏まで繋げ

「氷上シルクロード」構想が明らかになったのは、2017年の習近平主席のロシア訪問の旅でした。プーチン大統領との会談の中で習首席はこの氷上シルクロード構想を提示し、両国は北極海航路開発における協力推進に合意しました。

同年11月には北京を訪問したロシアのメドヴェージェフ首相と習主席が会談。習主席は「ロシアと共同で北極海航路の開発・利用協力を推進し、氷上シルクロードをつくり上げなければならない」と、二国間協力の推進を確認します。

2018年1月、中国は初めてとなる北極政策文書『中国の北極政策』を公表しました。同白書は「北極の情勢と変化」「中国と北極の関係」「中国の北極政策の目標と基本原則」「中国の北極事務への関与における主要政策主張」の4つの部分からなっており、その概要は以下のとおりです。

・中国の資金、技術、市場が北極航路の開拓や沿岸国の発展に重要な役割。
・中国は関係国と「氷上シルクロード」を建設し、北極地域の持続可能な発展を促進。
・北極の環境、気象、生態などの科学調査を強化。北極の環境を保護し気候変動に対応。
・北極航路の開発利用、石油や天然ガスの開発、漁業資源の保護利用に関与。
・自然を生かした観光開発を促進。
・国連憲章や国連海洋法条約を堅持しながら、北極統治メカニズムの整備を提唱。

この発表は世界に波紋を拡げました。海洋派遣の野望が北極海にまで及んでいることを中国が隠さなくなった、といった形で、中国の北極進出に警鐘を鳴らす論調が数多く見られたのです。