地球温暖化の影響で、北極海の氷が急激に減少している。海上自衛隊幹部学校教官の石原敬浩2等海佐は「北極海をめぐる状況が激変し、アメリカとロシアの軍事対立の最前線となりつつある」という――。

※本稿は、石原敬浩『北極海 世界争奪戦が始まった』(PHP新書)の一部を編集したものです。

北極海の一部、バレンツ海に位置するロシア領アレクサンドラ島付近で、衛星写真にとらえられたデルタⅣ型弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(黒い穴の右に見える縦長の艦体)
写真=Satellite image ©2021 Maxar Tech/AFP/時事通信フォト
北極海の一部、バレンツ海に位置するロシア領アレクサンドラ島付近で、衛星写真にとらえられたデルタⅣ型弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(黒い穴の右に見える縦長の艦体)

北極で軍事力を強化するロシア

2022年8月、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は「北極におけるロシアの軍事力強化はNATOにとっての戦略的な挑戦だ」と述べ、強い警戒感をあらわにしました。当然ですが、その背景には2022年2月以来のウクライナ戦争の影響があり、ロシアの脅威や核戦争への懸念があります。

NATOはこの直前にマドリードで首脳会議を開催しました。日本からも初めて岸田首相が参加し連携の強化を打ち出します。NATOは12年ぶりに新たな『戦略概念』を採択し、ウクライナに侵略したロシアを事実上の敵国と認定します。「最も重大で直接的な脅威」という表現です。ついでに述べておきますと、この会議には日本の首相以外にも韓国、オーストラリア、ニュージーランドの首脳も招待されており、NATOの「アジア太平洋パートナー」として、対中国を念頭に連携強化が話し合われています。

まあ、欧米vsロシア(ソ連)・中国との対立構造、いつか見た風景、冷戦時代の対立構造を彷彿ほうふつとさせるものです。