インバウンドが復活している。観光地が北海道・ニセコのように富裕層を取り込むことはできるのか。金融アナリストの高橋克英さんは「日本の観光地が外国人富裕層をひきつける“次のニセコ”になるのは簡単ではない。4つの条件をクリアする必要がある」という――。
ピンクのスーツケースとパスポートを持つ女性
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訪日客1人あたりの支出額が増えている

訪日客数は2023年1〜5月の累計で863万人と、コロナ禍前の2019年同期の62%にとどまった(日本政府観光局「訪日外客数(2023年5月推計値)」)。2023年1〜3月の訪日客の消費額は1兆103億円と、2019年同期の87%にとどまる(観光庁「【訪日外国人消費動向調査】2023年1-3月期の全国調査結果(2次速報)の概要」、「【訪日外国人消費動向調査】2019年1-3月期の全国調査結果(2次速報)の概要」)。

一方で、訪日客1人あたりの旅行支出は21万1000円と、2019年同期の14万7000円から43%も増加している。国別では、中国(67万5000円)、オーストラリア(35万円)、フランス(28万5000円)の順で高い。

訪日客1人あたりの旅行支出が増えているのは、外国人富裕層の存在が大きい。世界的に金融緩和が続いたことで、彼らの株式や不動産など保有資産は増加。旅行など消費に回すおカネも増えているのだ。

観光庁が「11のモデル観光地」を制定

こうしたなか、2023年3月、観光庁は、1回の旅行で100万円以上を消費する外国人旅行者を呼び込もうと、以下に示す全国11カ所を「モデル観光地」に選定した。自治体や観光事業者などに、事業資金の調達のほか、高級宿泊施設・体験ツアーの開発に詳しい専門家の派遣や、観光ガイドの人材育成、情報発信の方法などについて集中的に支援するという。外国人富裕層を地方にも呼び込み活性化を目指す目論見だ。

「11のモデル観光地」
◆東北海道エリア(北海道)
◆八幡平エリア(岩手県)
◆那須および周辺地域エリア(栃木県)
◆松本・高山エリア(長野県・岐阜県)
◆北陸エリア(石川県・富山県・福井県・岐阜県)
◆伊勢志摩および周辺地域エリア(三重県)
◆奈良南部・和歌山那智勝浦エリア(奈良県・和歌山県)
◆せとうちエリア(広島県・山口県・岡山県・香川県・愛媛県)
◆鳥取・島根エリア(鳥取県・島根県)
◆鹿児島・阿蘇・雲仙エリア(長崎県・鹿児島県・熊本県)
◆沖縄・奄美エリア(沖縄県・鹿児島県)

もっとも、「11のモデル観光地」は、日本全体のほとんどをカバーするのではないかという、広大なものであり、北は北海道から沖縄まで、満遍なく選ばれている。そもそも、那須や伊勢志摩などを除けば、どこのエリアを指しているのか分からなかったり、広域過ぎるものが大半だ。せとうちエリアなど、なんと5県にまたがっている。