現代の日本で子育てをするのは大変だ。文筆家の御田寺圭さんは「子供を持たず、代わりにペットを飼う選択をする人々がいる。背景には子供を『ちゃんと育てること』のハードルが高くなっていることがある」という――。
ベッドの上に並んで座るゴールデンレトリバーと猫
写真=iStock.com/Irina Kashaeva
※写真はイメージです

新しく飼われた犬猫の数>新しく生まれた赤ちゃんの数

一般社団法人ペットフード協会の資料「2022年(令和4年)全国犬猫飼育実態調査」によれば、2022年に新しく飼われはじめた犬猫の頭数は、犬が42万6000頭、猫が43万2000頭であり、合計すれば85万8000頭である。

これは同年に日本で誕生した子供の総数77万747人を大きく上回る数となっている。

2022年1月、ローマ教皇が「子供を持たずにペットを飼うのは身勝手な行いだ。親になる責任から逃げるな」と発言し、各国から批判の声を浴びた。

ローマ教皇フランシスコは5日、ヴァチカンでの一般謁見えっけんで、親になることについて言及し、子供を持つ代わりにペットを飼うことを選択する人は自分勝手に振る舞っていると示唆した。(中略)
フランシスコ教皇は過去にも、子供よりペットを選ぶ人たちに対して発言している。2014年には、子供の代わりにペットを飼う行為は「文化的劣化の現象の1つ」であり、ペットとの情動的関係は親子の「複雑な」関係より「たやすい」と述べた。
BBC NEWS JAPAN「ローマ教皇、子供を持たずにペットを飼うのは『身勝手』」(2022年1月6日)より引用

なぜローマ教皇がそのような発言をしたのか、当時ほとんどの人は理解できていなかった。しかし今となっては、教皇の発言はまぎれもなく現代社会のグロテスクな様相を見抜いていたと言わざるを得ないだろう。

かつて「子供」は労働力であり後継者であった

多くの人が第一次・第二次産業に従事していたひと昔前、子供を持つことには即時的な労働力としての期待や、あるいは自分たちの家業を継ぐ後継者としての役割などが見いだされていた。

しかしながら、7割近くの人が第三次産業に従事するようになった現代社会では、子供を持つことにはそうした「実利性」にかかわる目的意識はなくなり、そのインセンティブは主として「娯楽性」に依拠するようになっていた。

「娯楽性」とは具体的にいえばつまり、子供を持つことで得られる充足感や楽しさや愛着形成といった、ありていに言えば「心がハッピーな気持ちになれること」である。これがいまの時代に(実利性の面では期待できる便益はほとんどないにもかかわらず)それでもあえて子供を持つことの最大の訴求性となっている。

子供を持つことで得られる、得も言われぬ心の安寧や幸福や高揚感、か弱い存在を包摂することで得られる自己肯定感、成長を見守る満足感――それらは、労働力になるとか後継者になるとかそういう「経済的実用性」とは異なる。数字には表れないし実益があるわけではない。先述したとおり、自分たち家族の人生に彩りを与え、楽しく充実した気持ちを与えてくれるものだ。