「短大を出たら就職ができない」状況に

バブル時代の短大就職率(卒業者に占める就職した人の割合)は常に90%近くとなっています(前出図表2参照)。少し就職事情に詳しい人がこの数字を見ると、異常なほどに高い、と感じるでしょう。なぜなら、卒業した人でも、四年制大学に入りなおす人もいるだろうし、当時なら調理や被服などの専門学校(花嫁学校)に通う人やそのまま家に入って家事手伝いの人も少なくないはずだし、少数ながら留学した人もいただろうし……。こうした「非就職希望者」はいつの時代だって1割程度はいたものです。にもかかわらず、就職率が9割近いということは、現実的には「ほぼ100%」だったと考えられる。だから、驚きの数字なのです。

対して、四年制大卒業者(主に男性)は今よりも3割以上も少なく、しかもバブルで景気は絶好調だったのに、それでも彼らの就職率は7割台にとどまっています。ここからも、当時の短卒の就職率の異様な高さはわかるでしょう。

「四大なんか行ったら就職なくなるよ」という裏側には、これほどまでの短大有利がありました。ところが、景気低迷とともに、一般職採用がこれでもかというほどに削減され、当然、短大卒業者の就職率も、坂道を転がり落ちるような猛スピードで落下していきます。

今度は、「短大を出たら就職ができない」になりました。景気悪化から2年遅れて、短大進学率も下降を始めます。こうして、OLモデルという生き方の終焉しゅうえんが始まりました。

方眼紙に「不採用」の文字と、マーカーペン
写真=iStock.com/Seiya Tabuchi
※写真はイメージです

90年代半ばには、さざ波景気という緩やかな景気回復期が訪れ、四年制大学の新卒採用(=総合職)については状況が一時的に改善します。ただ、短大卒の就職率の悪化はとどまるところを知りません。そのまま一気に2000年まで下降を続け、6割を割って58%まで下がりました。この間に、短大進学者は4割も減っているにもかかわらず、です。

企業はもう、多少業績が回復しても、かつての「部長秘書」のような働かない管理職を助長する仕組みを復活させはしなかったことが一つ目の理由に挙げられるでしょう。

一般職が潰えたもう一つの理由

そしてもう一つ、大きな理由が存在します。

90年代の中盤より、一般職の女子社員が、昇進や昇給などで不平等な扱いを受けている、と企業相手に訴訟を起こすケースが相次いだのです(住友グループ/1995年提訴、兼松/1995年提訴、野村証券/2002年提訴、昭和シェル石油/2004年提訴)。その結果、大手企業は次第に、一般職という職制に対して、マイナスイメージを持つようになりました。そうして、事務職を雇う場合も、自社採用することに難色を示し、派遣社員派遣社員(これは雇用しているのは派遣会社なので、待遇に差が出ても黙認される)に置き換えていったのです。

こんな流れで、90年代の終わりには、短大→一般職というかつての女子のメインストリームは完全に潰えていきました。

ここまでで、「昭和型社会構造」が、不況のため産業側から壊れだし、ほんの少々タイムラグを置いて、教育界にまで波及していくのが分かったかと思います。

ではなぜ、このころから「心」の部分は刷新されなかったのでしょうか。

日本の産業界の辿った道筋を大まかに辿れば、「日本型は要らない部分からさっさと切り捨てた」が「本丸については、微修正を加え続ける形で、何とかその命脈を保ち続けたからだ」と言うことができるでしょう。

まず、ここにある通り、事務職正社員(=一般職)を切り捨て、量を減らして非正規化しました。続いて、製造・販売・サービス・運搬/清掃といった非ホワイトカラーを、非正規化していきます。90年代から2000年代初頭にかけて、こうした形で非正規化が進んだことで、リーマンショックの数年前から、「貧困」「格差」問題が頭をもたげるのです。

ただ、この当時、マスコミを中心に大きな誤解も生まれています。実はこうした流れの中でも、ホワイトカラー職務に対しては、非正規化はほとんど進んでおらず、しかも、少ない非正規の多くが、定年退職者の再雇用だったりするのです(図表4)。

【図表】非正規雇用比率(2022)

つまり、日本型の本丸は保たれ続けることになります。

それでも、かつてほどの大判振る舞いはできないから、課長になれる率は下がり、年功昇給も、前述の通り、緩やかなものにした。そうした形で、マイルドに日本型を維持し続けたと言えるでしょう。

その結果、大学を出れば「給与は高く、偉くなれる」という幻想が、細々と現在まで残り続けるのです。

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