これからの時代に成長する企業の条件とは何か。元マッキンゼーのパートナーで慶應義塾大学名誉教授の上山信一さんは「近年大きく成長する企業は、消費者からの『共感』をテコにファン層を広げている。彼らが掲げるミッションは、いわゆる企業ブランドの域を大きく超えている」という――。

世界の先端企業ブランドは「共感」に支えられている

この10年ほどの間に急速に我々の生活に浸透した企業ブランドやサービスを挙げてみよう。「アップル」「エアビーアンドビー」「ウーバー」「グーグル」「パタゴニア」などが思い浮かぶ。いずれもかっこよくて、若者に人気がある。また、ミッションに社会や環境との調和をうたう。

米アップルの直営店「アップルストア」=2020年9月28日、アメリカ・ニューヨーク
写真=AFP/時事通信フォト
米アップルの直営店「アップルストア」=2020年9月28日、アメリカ・ニューヨーク

従来の一流ブランドの多くは「高品質」「安定性」「信頼性」などをアピールした。これに対してこれら企業は先進性や時代感覚、あるいは社会変革を前面に出す。そして圧倒的な「いいね数」、つまり人々の「好き」「イケてる」という共感に支えられファン層を広げる。

ジョブズはプロダクトデザインを「禅」と表現した

①アップル
ハイテクと同時に「ミニマリズム」を代表するブランドだ。創業者のスティーブ・ジョブズは東洋哲学や禅に傾倒していたし、彼がこだわったプロダクトデザインは、無駄を極限まで削ったものだった。それをジョブズは「禅」と表現し、アップルストアを白で統一した。

②エアビーアンドビー、ウーバー
SNSの普及で個人が情報の発信者になったことで、エアビーアンドビーやウーバーといったシェアリングサービスが生まれた。個人間を仲介するシェアリングサービスは、お客様 対 業者という主客の関係を分離し、上下関係を壊した。「対話」的な関係性のもとで個人の大切なものを他人と共有するシェアリングは、個人間に新たな共生関係を生みだした。

③グーグル
いわゆるGAFAのひとつで情報独占を批判されるグーグルも、元々はシェアリングを意識した企業だ。グーグルはインターネットの黎明れいめい期に世界の図書館、つまり国境を越えたネットワークで知識を共有することを目指した。その結果、グーグルのプラットフォームが標準規格となったのだ。

④パタゴニア
パタゴニアは「サステナビリティ」と「エコ」を追求するアパレル企業だ。ファッションは使い捨て型産業の典型だが、その真ん中で同社は「新商品を買うより、古いものを修理して使おう」と言い出し、消費者の共感を集めた。同社は拡大再生産という資本主義の基本原理を否定することで消費者の共感を集め、競争にも勝ち続けている。