もう1つには、年収にキャップをかける方法があります。例えば「どんなに稼いでも1億円以上は収入にできない」というルールを作る。そうすれば1億円を稼いでなお働こうとは思わないでしょうし、投資で資産を際限なく増やそうとする試みも無駄になります。年収の上限は3000万円くらいでもいいと思います。

このようにしてルールとして労働時間が短縮し、かつ一定額以上は稼げなくなると、人々は新たに生まれた時間を家族や友人と過ごしたり、ボランティアをしたり、趣味など好きなことをして人生を深めることになるでしょう。労働のストレスから解放され、過労で倒れることもなく、本来の人間らしい人生を取り戻せます。

20世紀は、労働者が使役者に「もっと働くから金をくれ」と要求する時代でした。しかし、21世紀は「皆で休みが取れる企業にしていこう」と提案し、議論していく時代です。

もちろん、企業は収益を上げているからこそ雇用を維持しています。特に大企業はグローバルな市場でしのぎを削っているので、日本だけで完結する話でもないかもしれません。国が国際社会に「資本主義の加速に何らかの歯止めを」と訴えることも必要でしょう。

それでも、これがまったくありえない話でもないのは、私たちは3年前にこの試みを実現しているからです。新型コロナの感染拡大に際し、世界各国はそれぞれに経済活動に制限をかけ、資本主義を減速しました。いろいろ問題はありましたし、ひずみも生じましたが、やってやれないことはなかった。いずれ同じことを、気候変動を前にしても考えざるをえなくなります。

日本は“資本主義にキャップをかける試み”で先行して、世界をリードする国であってほしい。それによって日本は世界から「真に魅力的な国」と映るでしょう。日本の価値はGDPではありません。教育、安全、食、文化、自然、水、医療――日本の持つ魅力はGDPには加味されていません。

今、私たちが不幸なのはGDPという数値、金銭的価値に囚われるあまり、こうした数値化できない素晴らしい面に目が向いていないことです。資本主義にキャップをかけることで、私たちが幸せに過ごすようになれば、日本は脱成長のモデルを世界に示すことができます。それは資本主義を加速させ分断・対立・攻防を生むよりも、ずっと素敵なことではないでしょうか。

毎日が楽しい人生の本質とは

脱成長的なシステムに移行していくシナリオは、もしかしたら皆さんには現実的と思えないかもしれません。しかし、私が大学などで接する若い世代は現状に逼迫した危機感を持ち、資本主義のあり方に疑問を抱き始めています。この中から「3.5%のうねり」が起こり、社会が変革して行く可能性を、私はリアルに感じています。

例えば、先述の「週休3日制」が実現すれば「皆で集まって何かしよう」という余裕が生まれます。酒を飲む、スポーツをする、地域の祭りに参加する。楽しい時間を共有できれば、新しい価値観が生まれるに違いありません。