行き詰まったIT先端分野からの大転換

アップルが急速に金融事業を強化している。一つの取り組みとして、4月17日、米国での預金サービスの開始が発表された。プレスリリースによると、サービスの対象になるのはアップルカードのユーザーで、日本ではサービスを利用することができない。口座管理に関しては、米金融大手ゴールドマンサックスのシステムを活用する。

米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)
写真=AFP/時事通信フォト
米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)

預金金利は4.15%(年率)と高い。利用者には多様なメリットがもたらされる。買い物時の決済など利便性は高まり、より多くの利息を受け取ることもできる。

一方、アップルにより多くの利用者の個人情報や財務状況など、膨大なデータが集中することが懸念される。最近、米国などのIT先端分野ではサブスクリプションなどのビジネスモデルの行き詰まりが深刻だ。アップルとしては、金融ビジネスに進出し、より多くのデータによって成長を図る考えは強まりやすい。主要先進国にとって、個人情報の保護や公正な競争環境の維持などに関して、法制度など何らかの枠組みが必要になるだろう。

銀行業界への参入障壁がぐっと下がった

近年、アップルは金融ビジネスを強化してきた。その狙いは、自社の製品やサービスの販売増加や、新しい需要創出に向けた取り組みの強化にある。背景の一つとして、世界経済のデジタル化は大きい。世界各国でこれまで銀行などが一手に抱えてきた預金、口座振替決済、金融仲介などの機能が非金融の分野に急速に溶け出している。

多くの銀行などが預金の管理や信用審査、リスク管理などのためにITシステムを強化してきたことを踏まえると、そうした変化はある意味で必然だ。アップルの預金サービス開始は、銀行業界の垣根(参入障壁)の低下を示す、象徴的な出来事といえる。

2014年にアップルは“アップルペイ”を開始した。アップルペイはわが国でも利用している人が多い非接触型の決済システムである。同社はスマホなどのITデバイスやアクセサリー、音楽配信などのサブスクリプション(継続課金制)ビジネスなどの利用に伴う決済システムを内製化した。

それによって、他社に流れ出てきた決済の手数料を取り込むことができる(バリューチューンの強化)。同社はユーザーの好みや支出額の傾向など、多種多様なビッグデータをより多く手に入れるようにもなった。