パンデミックを支えた配達員たちが生活苦に直面している

Uber Eatsなどフードデリバリーの配達員たちは、新型コロナの感染拡大で外出がままならなかった時分、海外では「パンデミックの英雄」などと呼ばれもてはやされた。もはやエッセンシャル・ワーカーに近い存在とまでみなされていたようだ。

だが、今では状況が一変し、収入の確保に苦労しているという。

会社に雇われず、短時間で単発の仕事を請け負うこうした労働スタイルは、ギグワークと呼ばれる。働く時間を柔軟に選べる反面、収入が安定しない弱みがある。

雨の降るなか、スマホを確認しながら自転車を押すウーバー配達員
写真=iStock.com/Alvaro Laguna
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Uber Eats発祥の地でもあるアメリカで、ギグワーカーの実情を大手紙が報じている。

高級寿司の配達でチップを狙う56歳男性

ニューヨーク・タイムズ紙は4月、配達員たちの苦境を報じる記事を掲載した。

同紙は「配達員たちは、パンデミックの英雄として称えられていた」と述べ、気軽に外出できなかった時期の助けになったと評価している。しかし記事はまた、結果としてはそのパンデミックが配達員たちの生活を破壊してしまったと指摘する。

同紙記者は配達員で56歳男性のブラントリー・ブッシュさんと30時間以上を共にし、その実態を取材した。記事によるとブッシュさんは、カリフォルニア州サンタモニカに近い高級住宅街の路地裏を待機場所にしているようだ。単価の高い配達案件を受注でき、高額なチップを狙いやすいのだという。

ブッシュさんは高級寿司店からの配達案件を引き受け、フードをピックアップしては注文主の元へと愛車のスバルを走らせた。手入れの行き届いた芝生の広がるきらびやかな住宅や、深夜のオフィス街で働くピアノ教師などが届け先だった。

続く3件目を受注したとき、さすがに胸を高鳴らせたようだ。同じ高級寿司店への注文だが、今度は388ドル(約5万2000円)の大口案件だった。配達の基本料金がわずか数ドル(数百円)という現状、収入の大部分はチップに依存している。この案件なら、運が良ければ50~70ドル(約6700~9400円)のチップが期待できる。