「儲かる仕事」は風車の事業者を訴えること

NGOによる疑問符のつく資金調達方法は他にもある。ドイツには現在、国民の代表として企業や自治体を訴える権限を持つNGOが78組織あるが、NABUとBUNDはその権限も存分に利用する。ディ・ヴェルト紙曰く、やり方は「実にクリエイティブ」。

杉山大志(編集)、川口マーン惠美、掛谷英紀、有馬純ほか『「脱炭素」が世界を救うの大嘘』(宝島社新書)
杉山大志(編集)、川口マーン惠美、掛谷英紀、有馬純ほか『「脱炭素」が世界を救うの大嘘』(宝島社新書)

魅力的な資金調達法の一つが、風車による野鳥の被害を理由にウィンドパーク(風力発電所)の事業者を相手取って訴訟を起こすことだ。ただし、被告が原告の指定する機関に指定した金額を寄付すれば訴訟は取り下げるというから、どことなく免罪符を思い出す。いずれにせよ、これは「儲かる仕事」(ディ・ヴェルト紙)で、NABUの得意技となりつつあるという。

NABUの自然保護基金に50万ユーロ(約6500万円)を寄付したヘッセン州のウィンドパーク経営者は、「抵抗することなど、どの企業にも絶対不可能」とコメントしている。ただ、寄付した後には、鳥に優しいウィンドパークというお墨付きが与えられるそうだ。

このやり方は、しかし、NABUの内部でも問題になっており、鳥の保護と風力発電の拡大は両立できないとする会員が、風車の建設規制を訴えるNGOに移り始めているという。幹部の一人は、「我々は、今も起こっている恐ろしい野鳥の死を、過去の話だと説明している」として、NABUのプレジデントに抗議文を送りつけたという。

フィンランド森の風車
写真=iStock.com/wmaster890
※写真はイメージです

壮大なエネルギー転換政策を掲げた財団の正体

環境相のシュルツェ氏もNABUのメンバーだ。日頃NGOを称賛しつつ、しかし、脱炭素達成のためには、風車は立てられる場所にはくまなく立てるべきだと主張しているくらいだから、当然、風力発電事業者との距離も近い。結局、どちらからも重宝されているのがシュルツェ氏の正体かもしれない。これではNGO幹部に対する不信がますます募る。

ディ・ヴェルト紙の論考の中で、何といっても興味深かったのは、この壮大なエネルギー転換政策が、いったいどのように始まったかという点だ。それによれば発端は米国。

2007年、「勝利のためのデザイン 地球温暖化との戦いにおける慈善事業の役割」(Design To Win-Philantropy‘s Role in the Fight Against Global Warming)という研究レポートが完成した。依頼したのはヒューレット財団(ヒューレット・パッカード社の創立者の一人ヒューレットが1966年に作った慈善財団)。財団のお金をいかに活用すれば、一番効果的に温暖化防止政策を構築し、遂行できるかということが研究目的だった。