簡単に犯罪に手を染めるのは、感情が劣化しているから

【宮台】同時に起きたのが多重オタク化。複数の引き出しを持ち、相手が音楽を好きなら音楽の話をします。マウンティングから社交ツールへの変化でオタクが市民権を得て、00年代にはオタクの恋愛話「電車男」が流行。メイド喫茶で秋葉原が観光地化します。といっても相手に合わせるだけ。本当に好きなものの話はすべて裏垢。「友達」とは空気を読んでテンプレで戯れるだけで、「自分でなくていいんじゃね?」と寂しくなります。

――かつては犯罪に簡単に引き込まれるツールはありませんでした。若者たちの感情の劣化がツールと結びついて、簡単にタタキ(強盗)に参加する人が増えた側面はあるのでしょうか。

【宮台】はい。闇バイトがやばいのは誰もが知っていても、全体像を知らないのが言い訳になる。ましてタタキはやばいけど、全体像を知らずに指示に従うだけなのが言い訳になる。でも、それで敷居が下がるのは、塩田くんが言う通り、自分にだけ意識が向かい、他者への想像力が働かないからです。募集や指示がなされるSNSこそまさに、自分にだけ意識が向かい、他者への想像力が働かない感情的劣化の加速媒体です。

特殊詐欺をした10代の半数が遊興費目的

【塩田】取材をしていると、もともと半グレやヤクザと交流があった人たちが、その関係性をベースにして犯罪行為に手を染めていくケースと、これまで犯罪に交わらなかった人たちがツールを介して実行犯になっていくケースがありました。フィリピンを拠点にする「箱」と呼ばれる犯罪グループの一味には多摩美術大学でミスコンに出ていた女もいましたが、彼女のような若者が犯罪に手を染めていく実態に社会が困惑しているように思います。

塩田アダムさん
撮影=門間新弥

ワイドショーのコメンテーターなどは、よく後者のケースを指して「純粋無垢むくな若者が『闇バイト』というトラップにひっかかって、身分証を押さえられたから、犯罪行為に手を染めざるを得なかった」というまとめ方をしています。しかし、SNSや掲示板を媒介にして闇バイトに応募する若者は極めて自発性が高く、何の強制も受けていません。

警視庁が発表したデータでも、特殊詐欺の受け子や掛け子をやった10代の200人のうち、約50%が犯行動機として遊興費をあげました。飲食店のバイトのような感覚で自発的に参入してくる実態を見ると、やはり宮台さんの言う「感情の劣化」を前提に考える必要があると思います。