介入群には最初の5年間、4カ月ごとに健康診断を行い数値が高い人にはさまざまな薬が処方され、アルコールや砂糖、塩分の抑制を含めた食事指導や運動などの生活指導も行われました。

一方の放置群のほうは、定期的に健康調査票に記入するだけで調査の目的も知らせずに、文字どおり放置しました。

6年目からはどちらのグループも健康管理を自己責任に任せたうえで、15年後にその健康状態の追跡調査を行いました。

その結果は、多くの人の予想を裏切る衝撃的なものでした。がんなどの死亡率、自殺者の数、心血管性系の病気の疾病率や死亡率などにおいて、きちんと健康診断を受けて投薬治療や食事制限をされた介入群のほうが、放置群よりも高いという結果が出たのです。とくに、介入群には数名の自殺者がいましたが、放置群では皆無に等しいものだったようです。

つまり、介入的な健康管理によって血圧やコレステロール値などが数値的には改善していた人たちが、逆に死亡率が高くなっているという結果が出たのです。

この研究結果は非常に示唆的でした。数値的な改善が死亡率の低下にはつながらないという1つのエビデンスが示されたといえます。つまり、治療の常識を根本から問い直すようなものだったのです。

ところが、この調査結果が発表されたとき、日本の医学部の医師たちはほとんどまともにとりあおうともしませんでした。それはそうでしょう。自分たちが健康管理に介入しないほうが長生きできるなどと言われてしまっては、立つ瀬がありません。

和田秀樹『70歳からは大学病院に行ってはいけない』(宝島社新書)
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しかし、頭ごなしに「こんな調査はインチキだ」と否定するのではなく、そこから学ぶべきものを学んで自分たちのよりよい治療に生かしていくべきではないでしょうか。

もし「インチキだ」と主張するのであれば、自分たちも同じように15年もの年月と費用をかけて、こうした大規模調査を行うべきでしょう。反証できる結果を示して「どうだ、きちんと介入したほうが死亡率は下がるではないか」と主張すればよいのです。

それをせずに、自分たちの常識と反するものが出たからといって、頭ごなしに「インチキだ」と否定するのは、科学者が科学を否定するにも等しいことです。

太っている人は誰もが不健康とは限らない

「正常値絶対主義」は、医療界の随所で見られます。

厚労省の旗振りのもと、社会全体でメタボリックシンドローム対策に取り組んでいますが、この背後には「メタボの人はリスクが高くなって医療費がかさむ」ということが定説としてあるわけです。そうなるとすぐ、メタボな奴は医療費をたくさん使うからけしからん、という論調になりがちです。

でも、なぜそういうことになってしまうのか、その根本を真剣に考えてみたことはありますか。

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