あまりに山奥なので「四国のチベット」といわれる徳島県那賀町の木頭地区で、外国人映像クリエイターによる民間主導の「地域おこし」が始まっている。地元の自然や文化を紹介する動画を発信しながら、ゲストハウスを運営しているのだ。狙いはなにか。ジャーナリストの牧野洋さんがリポートする――。(第14回)

アメリカ人の太平洋横断を支援するのは…

タイラー・ワキ、39歳。アウトドアライフが大好きで日本語を流ちょうに話すアメリカ人映像クリエイターだ。

タイラー・ワキ氏、妻と一緒にヨット上で
写真提供=KITO DESIGN HOLDINGS
タイラー・ワキ氏、妻と一緒にヨット上で

現在、ヨットによる太平洋横断の準備で大わらわ。2024年1月にカリフォルニアを出港し、1年かけてニュージーランド経由で日本へ向かう。スポンサーは徳島出身の起業家でメディアドゥ社長の藤田恭嗣(49)だ。

言うまでもなく太平洋横断プロジェクトには多額の費用が掛かる。スポンサーとして藤田が拠出するのは、地方に立派な家を1軒建てられるくらいの金額である。

藤田は広告効果を期待してスポンサーになったわけではない。そもそもタイラーは広告塔になれるほどの有名人ではない。

「木頭を気に入り、長く住んでくれればいい」

「タイラーには感謝しかない」と藤田は言う。「僕が愛する木頭きとうにわざわざやって来て、映像作品を残してくれる。これまでそんなことをしてくれる人は一人もいなかった」

藤田が生まれ育った古里が旧木頭村だ。現在は徳島県那賀町なかちょう木頭地区であり、県最奥に位置する人口1000人をきる過疎高齢化が進む山村である。

「タイラーは結婚して奥さんを連れてきたうえ、友人のアルリックにも声を掛けてくれた。本当にうれしかったですね」

アルリックとは、タイラーに誘われて木頭に移住したノルウェー人音楽クリエイター、アルリック・ファレット(32)のことだ。

「僕の人生計画の中にタイラーとアルリックの2人が常に存在します。僕は彼らを縛り付けているわけではありません。夢がかなうよう支援してあげているだけです。結果として彼らが木頭を気に入り、長く住んでくれればいいんです」