「これ以上赤ちゃんができないように」炊事場の一角で避妊の処置

ヤンゴンから少し離れた村には、病院もなく医者もいない。お母さんは村の女性たちからよく医療相談を受けていた。幼いサンサンさんが助手としてついていくこともあった。

患者さんはみな子だくさんで貧しく、家は狭い。炊事場の一角を布で仕切って、診察も手当てもそこでおこなう。

「患者さんが横になって、母はストローみたいな形をしたものを押し込んでいました。あれは避妊のための処置だったんだとあとで知りました」

すでに6人も7人も子どもを授かり、これ以上は育てられない。赤ちゃんができない体にしてほしい。それは女性たちにとって切実な願いだった。

「生まれた子を引き取ってくれと頼む人もいてね。そうするとやっぱり母はそれを断ることができなくて。おばあちゃんと手分けして面倒をみていました」

仏教国ミャンマーでは珍しく、おばあちゃんとお母さんはクリスチャンだった。でも困っている人を捨て置けないのは、信仰というより性分だろう。

聖書とクロス
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ミャンマーでは、学校や職場に出す書類に母親の名前を書く欄がある。お母さんは引き取って育てた子どもたちに「困ったときは私の名前を書いていいからね」と伝えていた。

そのためサンサンさんはいろんな場所で、「あなたは本当の子?」と聞かれたとか。

「小さな頃は、やきもちしました」という言い方がかわいらしく、切ない。

人助けをして借金取りに追われる生活

とはいえ、お母さんひとりの稼ぎでそんなに多くの人が暮らせるはずもなかった。家計は逼迫ひっぱくし、やがては借金を抱えることになる。

「子どもの頃、借金取りが家に来るのが恥ずかしかった。お母さんは『なにか売ってお金を返します』と頭を下げるんだけど、もう売る物なんかなにもないの。それなのに家には親戚や困ってる人が次から次にやってきて……」

ビルマ語では、友人に会ったときこう挨拶する。

「タミンサーピービーラー(ごはん食べたか)」。相手が「まだ食べてない」と答えたら、「じゃあ食べていけ」ってなるのは必然だ。ロンジー(腰巻)がないって言われたらあげちゃう、お米がないって言われたらあげちゃう。お母さんは軽やかに人を助け続けた。なんなんだ、それは……。わたしが信じられないという表情をしたら、サンサンさんは笑って言った。

「当時は『家のお金がないのに、なんであげちゃうの』って母とよく喧嘩しました。でも母は『なんとかなるから大丈夫』って。そういう人なんです」