SNSと言えば、最近、若者の間で文頭に「え、待って」とつけることが流行っていると知りました。「え、待って。今日寒いんだけど」といった使い方です。

これにはおそらく2つの意図があるのでしょう。1つは仲間であることのアピールです。SNSは読み手が不特定多数ですが、「自分は仲間の一員だから、みんなとおしゃべりしていいよね」というシグナルを送っているわけです。

もう1つは、リズムをつけるためです。話し言葉で、「あ、そうですね」というように最初に「あ」とつける人は多いですが、書き言葉でもその延長で「あ、大変だ」「あ、忘れた」と書く人もいます。同様に、続く言葉に勢いをつけるために「え、待って」から始めるのです。

言葉の用法は時代とともに変容していきます。「え、待って」が単なる流行り言葉で終わるのか、それとも今後広く定着していくのか、注目しています。

読み手の興味を惹くのは結末の見えない文章

次は断片的な言葉やフレーズではなく文章に目を向けてみましょう。

人の心を動かす文章とはどのようなものか。逆につまらない文章を手掛かりに考えてみます。

私が読んで退屈だと感じるのは、最後まで読まなくても内容がわかる文章です。たとえば学生の書く志望動機。大学で教員をやっていたときは面接官をやる機会が多くありましたが、十中八九、みんな同じことを言います。それを何度も聞かされれば、たとえ正しいことを正しく表現していても飽きてきます。

紋切型から脱するには、具体的なエピソードから入っていく構成がおすすめです。

私がAKB48の総選挙番組に呼ばれて出演したときの話です。多くの女の子が「ファンの皆さまありがとうございます。頑張ります」と同じようなことを話していました。しかし、指原莉乃さんは「本屋でAKB48の雑誌を読んでいたところを目撃した」というエピソードから話し始めました。それまでのスピーチに退屈していただけに、指原さんの話にはグッと惹きつけられました。

文章も同じです。たとえば志望動機なら、「オリンピックでスキー選手が……」とまったく関係なさそうなエピソードから始めてもおもしろい。あえて一般的なパターンを外すことで、「え、どうなるの?」と相手に思わせるのです。

エピソードは具体的であるほど印象に残ります。「朝ごはんを食べました」より「朝ごはんはミューズリーを食べました」と書いたほうが、「ミューズリーって何?」と気になりますよね。そうやって関心を持たせて、「ミューズリーとは」とさらに具体的な話を書いていきます。

一見関係ないエピソードから話を始めていくと、伝えたい結論へと展開していくのが大変だと思うかもしれません。

そこは発想の転換が必要です。文章は全体の構成を考えてから書き始めるべきだと思い込んでいる人が多いですが、読み手からすると、きれいにまとまった文章を読むのも退屈です。むしろ興味をそそられるのは、正解が見えていない中で必死に考えて、あっちに行ったりこっちに行ったりと思考の過程が浮かび上がってくる文章です。思考の結果、最後には「よくわかりませんでした」という結論になってもかまいません。ありきたりの着地点が最初から見えている文章より、よほど味があります。

文章力とはエピソード力