知人が事故や病気など不幸な出来事にあったと聞いたときに「周りには起こるかもしれないけれど、自分は大丈夫」と思ったことはありませんか。人が自分に不運な出来事が起こる確率を過小評価することを「楽観性バイアス」と言います。こうした「自分だけは大丈夫」「なんとかなるだろう」といった思い込みは、ときにリスク評価を誤る恐れもあるので注意が必要です――。

※本稿は、『イラストでサクッとわかる! 認知バイアス』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

自分に都合よく解釈してしまう認知バイアス

日常生活の中では、誰もが無意識のうちに直感や経験、先入観、願望などに囚われています。その結果、合理的でない選択や判断を下していたりします。

心理学ではこれを「認知バイアス」と言い、こうした思い込みや思考の偏りに誰もが縛られているのです。

認知バイアスは日常生活のあらゆる場面に潜んでいて、科学的に実証されているものは200種類以上あるとも言われています。

記憶や選択、信念、因果、真偽などに関連する場合に認知バイアスは生じやすいのですが、非合理的な判断をしてしまった結果、「あのとき、他の方法を選べばよかった」「なぜ判断を間違えてしまったのか」と後悔することもあります。

認知バイアスで陥りがちな失敗の一つに、リスク評価を誤るというものがあります。物事のリスクを客観的ではなく、自分に都合よく解釈して、リスクを小さく見積もってしまうわけです。

本稿では、リスク評価を間違えてしまう3つの認知バイアスを紹介します。

自分に不運な出来事が起こる確率を過小評価

同年代の知人が大きな事故に遭ったと聞けば、「大変だな」と思う人は多いでしょうが、「自分も大事故に遭うかも」と考える人は少ないのではないでしょうか?

人は、自分に不運な出来事(犯罪、病気、災害)が起こる確率を過小評価し、幸運な出来事が起こる確率は過大評価します。つまり人は、不幸な話を聞いても、「周りには起こるかもしれないけれど、自分は大丈夫」と捉える傾向があります。このように、ものごとを楽観的に解釈することを「楽観性バイアス」と言います。

楽観性バイアスは、独立や起業、開発など、新しいことを始めるときには必要だと言われています。そうしたときにリスクを細かく考えていると、いつまでも前に進めません。

いざ決断するときには、「なんとかなるさ」というこのバイアスがうまく作用することが重要だと考えられます。

楽観性バイアスは、性別や国籍を問わず人間に本質的に備わっており、多くの人に見られるとされています。過度の楽観は疾患を見逃すなどの危険性があり注意が必要ですが、その一方、ポジティブな結果を期待することで、ストレスや不安が軽減したり、健康的な生活や行動が促進されたりします。実際に楽観性バイアスの欠如は、うつ病などの心身の疾患とも関係することが指摘されています。

仕事の合間に手を頭の後ろで組んで椅子にもたれかかってリラックスする男性
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「楽観性バイアス」は、心理学者シェリー・テイラーが提唱する「ポジティブ・イリュージョン」の1つです。イリュージョンとは「幻想」のことです。彼女は、このバイアスがあることで、人が社会に適応することができ、心身の健康維持や促進に大きく貢献していると主張しました。ポジティブ・イリュージョンにはほかに、自分は平均よりも優れていると考える「平均以上効果」や、外界の現象をコントロールできると考える「コントロールの錯覚」といった認知バイアスなどもあります。