電通やくら寿司の不祥事はボロカスに叩かれた

わかりやすいのは2014年、サイゼリヤで働いていた20代の女性が自殺をした痛ましい事件だ。この女性、サイゼリヤの副店長からボディータッチなどのセクハラを受けて、性交渉も迫られ、挙句の果てにはパワハラまでされたことで、心を壊してしまったのである。

しかし、この悲劇は社会的に大きな注目を集めることはなかった。このニュースが報道された1年ほど後、電通で女性社員がパワハラで自殺をしたことは日本中に衝撃が走り、社長が辞任に追い込まれたにもかかわらず、である。

また、2022年に「くら寿司」の店長が駐車場で焼身自殺をした際にも大きな注目を集めた。報道によれば、この店長も上司からパワハラを受けていたということで、多くのメディアが後追い取材をした。ネットやSNSでも批判的な声があふれて、「くら寿司」公式Twitterが、「あぶりチーズポークカレー」を紹介したところ、「社員が焼身自殺した後に炙りって……」「不謹慎」といった批判のコメントが寄せられたこともあった。

電通やくら寿司のパワハラ自殺は「企業不祥事」として社会全体がボロカスに叩いたのに、なぜサイゼリヤのケースはスルーされたのか。亡くなったのが、社員とバイトという立場の違いがあるから……などいろいろな屁理屈をこねることはできるが、筆者はシンプルにサイゼリヤが「愛され企業」だったことも大きいと考えている。

広告宣伝に莫大なカネをかけることの代償

電通もくら寿司も一定のアンチがいて、パワハラ自殺の第一報が出た直後からこの人々が積極的にこれを拡散、批判をしたことで、その動きに刺激されてメディアが扱って、それをまたさらに批判するという炎上スパイラルが起きた。しかし、ファンの多いサイゼリヤではそういう動きにならなかったのではないか。

……という話を聞くと、「サイゼリヤが“愛され企業”というのは納得だが、テレビCMを大量に流しているような企業の中にだって“愛され企業”はあるのでは?」と感じる人もいるかもしれない。

もちろん、広告宣伝では「ファン」ができないなどと主張するつもりは毛頭ない。ただ、企業不祥事の世界では一般的に「広告宣伝に莫大ばくだいなカネをかける企業」ほど叩かれがち、つまりは「愛されない」ということが多々ある。

なぜそうなってしまうのか。まず大きいのは、広告宣伝の力が“逆回転”して「悪い話」まで世の中に広く喧伝けんでんしてしまうということだ。俗に言う「有名税」のようなものだ。

わかりやすいのは、スシローの「おとり広告」問題だ。