若者はどんな職場を求めているのか。リクルートワークス研究所の古屋星斗さんは「成長を感じられることが重要だ。居心地の良い職場にしようと、若手が辞めないようにご機嫌取りに走る上司がいるが、それでは逆効果になる」という――。

※本稿は、古屋星斗『ゆるい職場―若者の不安の知られざる理由』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

精神科医との面談
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「ふわっとしたことしか言えない30歳」が増えている

負荷はないが成長もない、ゆるい職場。2010年代後半以降の断続的な労働法改正によって期せずして日本社会に生じた職場環境である。この全く新しい職場環境は労働時間の縮減や居心地の良い環境を作り出したが、他方でこれまでのアプローチでは解決することが難しい問題も生み出したことをデータで示してきた。ここでは、その解決方法について考えたい。

私が衝撃を受けた、とある大手企業の管理職の発言がある。これがこの検証を行う動機になっている。

「ふわっとしたことしか言えない30歳が増えているんです」
「仕事に関して理想論やあるべき論は語るのですが、然るべき業務経験を積んでいないためか、発言にリアリティがなく具体的な企画に落とし込めないのです」

ゆるい職場時代に、どう若手を育成するか。これまでのアプローチが通用しないゼロリセットされた課題である。前稿でも見たとおり、仕事の負荷が低下する職場において、従来と同じような経験が積めない可能性が高いことが原因となり、職場が提供できる成長機会が縮小していくためだ。このために、「ふわっとしたことしか言えない30歳」問題が浮上してくる。

こうした「30歳」はあなたの会社にもいるだろうか。いるとすれば、それはあなたの会社の人材育成の屋台骨は想像以上にボロボロになっているかもしれないのだ。

企業が直面する若手育成2つの難問

本稿ではこうして浮上してきつつある、ゆるい職場における若手育成の問題を取り扱い、調査データや具体的な取組から見えてきた、解決方法の例を提示したい。

企業が直面する若手育成上の難問は、以下の2点に集約される。

A 仕事の関係負荷(※)なく質的負荷だけをどう上げるか。通常、質的負荷を上げようとすると関係負荷も上がってしまうが、どのように切り離すのか
B (入社前から社会的な経験を持ち)自律的な姿勢を身に着けている若手の方が、離職率が高い。この問題をどう解決するか

筆者註※関係負荷とは、「上司・先輩の指導が厳しい」など職場の人間関係に起因する負荷。本稿では、労働時間や仕事量から来る「量的負荷」や、業務の難しさや新しさから来る「質的負荷」と区別している。

この2点は調査から判明した事実でもある。

若手の仕事における成長実感には「仕事の質的負荷」は必要だが、「関係負荷」は必要ない。Aについては、ここから「関係負荷なく、質的負荷を上げるアプローチ」が有効であると考えられた。Bについては、こうした変化を受け止める職場はどうあるべきか。