チェック機能が果たせなかった、男性ばかりの役員会

彼女によると、ワインスタインの経営していた会社の取締役たちは、ワインスタインが性暴力の加害者になっているという問題に気づいていたにもかかわらず、チェック機能をはたしていなかったという。

「役員会のメンバーは男性ばかりでした。そこに教訓があるような気がするのです。もし、彼の会社の役員に女性がいたらどうなっていただろう? そうすれば、あの状況はどう変わっていたのだろうか? と」

ワインスタインの事件は結局のところ、職場で力を持つ人と持たない人がおり、さらにジェンダーバランスが損なわれているときに何が起きるかを表しているとトゥーイーさんは言う。

「個人を見るだけでなく、システムを見る必要があると思います。悪い行動や不平等をそのままにしてしまうシステムとはどんなものなのか、そして、どうすればそれを変えることができるのか。本来、職場はすべての人にとって、安全で公平なところであるべきです」

毎回、何もないところからスタートする

現在、トゥーイー記者は、セクハラや性暴力の調査報道を続けながら、他の問題についても取材を続けている。

「こうした大きな事件を報道した後に、新しい調査報道に取りかかると、また何もないところからのスタートになります。うまくいくかどうかは毎回わからない。取材の不確実性を改めて感じています。でも、私たちはこの仕事を続けられることや、報道の責任を引き受けることをとても幸せに思います」

ジェンダーギャップが大きい日本のジャーナリズム

日本は、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数で、世界146カ国中116位。政治や経済の現場で指導的役割を担う女性はまだまだ少なく、ジェンダーバランスに欠いている職場も多い。2021年度の日本の上場企業3795社の女性役員の比率はわずか9.0%だった。

ジャーナリズムの世界も同様だ。報道機関の意思決定層には女性が非常に少なく、日本民間放送労働組合連合会が2021年に発表した調査によると、全国の民放テレビ局の7割は女性役員がゼロ。また、2022年度の新聞協会の調査によると、通信社・新聞社86社の管理職の女性割合は9.4%だった。ジェンダーの問題を取り上げようとすると、上司の男性から敬遠されることが多いという女性記者の声も少なくない。

私自身も、2018年の福田財務次官のセクハラ報道をきっかけに、女性記者たちの受けたセクハラについて取材し、記事にしたことがある。

しかし、「他の女性記者たちも似たような経験をした人がいるはずだから、取材をしてみよう」と最初に社内で提案した時、男性記者たちは、「セクハラを受けた人なんてそんなにいないでしょう?」という反応だった。女性記者に限らず、多くの女性なら経験したことがある痴漢や、職場などでのセクハラ行為。その時は、男性記者と女性記者ではこれほどまでに感度が違うのかと驚いた。