日本企業が抱える2つの大問題

それに加えて、わが国企業の人材投資も海外に見劣りする。内閣官房に設置された「新しい資本主義実現本部事務局」が公表した賃金・人的資本に関するデータ集によると、1990年代の半ば以降、わが国の人材投資(GDP対比、OJT以外)は低下基調だ。対して、米英独仏の人材投資はわが国を上回っている。

金融街、マンハッタン、ニューヨークでのアップビュー
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以上より、複数の論点が浮かび上がる。ここでは2つ指摘しておきたい。まず、企業経営者も労働者も、終身雇用・年功序列が崩れ、雇用環境が不安定化する展開を過度に恐れた。わが国経済のパイが縮小しているにもかかわらず、終身雇用と年功序列が続けられた結果、経済全体で不可避的に賃金が伸びづらくなっている。

次に、わが国の雇用慣行は価値観の多様化に対応できていない。新しい働き方を志向する人は増加している。一方、わが国経済全体で過去の発想に依拠した雇用慣行から脱することが難しい。その状況が長引き、世界的にみてわが国の賃金伸び悩みが深刻化している。

年功ではなく、技能によって賃金は決まるべきだ

今後、わが国は、本格的な労働市場の改革により取り組む必要がある。同一労働・同一賃金の考えを徹底するのもその一つだ。冷静に考えると、同じ内容の職務に従事する人が能力や成果によって評価されるのは自然だ。

米国などの労働市場では、個々人が専門技能を磨き、より高い賃金を求めて働き先を変えることが多い。さらなる成長、自己実現、社会貢献などを目指して起業する人も多い。企業としても、優秀な人材に長く働いてもらうためには、成果に応じて賃金を支払わなければならない。

そうした労働市場の環境に加えて、1990年代以降の米国ではIT革命が起きた。近年は、ビッグデータを用いたサブスクリプション型ビジネスモデルが急成長した。それによってGAFAなどが急成長を遂げ、経済運営の効率性が高まった。それが米国の賃金上昇を支えた。