コスト削減のために非正規雇用を増やした結果…

1997年には“金融システム不安”が発生した。北海道拓殖銀行や山一証券が破綻し、翌年には大手行の一角である日本長期信用銀行などが破綻した。1999年2月には、日本銀行が政策金利である無担保コール翌日物の金利をゼロに引き下げた(ゼロ金利政策)。その後、一時的にゼロ金利政策が解除されたが、今日までわが国では超低金利環境が続く。経済は長期の停滞に陥った。

企業は生き残りのためにコストを削減しなければならなくなった。一つの方策として、人件費を抑えるために非正規雇用を増やした。そうすることによって既存の事業体制を維持し、正規雇用の大幅な削減を回避したともいえる。その結果、雇用者に占める正規雇用者の割合は低下し、非正規雇用の割合が上昇した。

1990年2月、就業者における正規雇用の割合は79.8%、非正規が20.2%だった。2022年7~9月期の平均値で正規雇用は62.8%、非正規雇用が37.2%だ(1990年2月の数値は労働力調査特別調査、2022年7~9月期は労働力調査詳細集計、いずれも総務省発表)。

正規の仕事があっても非正規を選ぶ人は増えている

賃金の決まり方は、多くの企業で旧来の制度が続けられてきた。新卒で就職して定年まで勤めあげる“終身雇用”と、年功を重ねるごとに賃金が上昇する“年功序列”を続ける企業は依然として多い。経済界ではこの雇用慣行を維持することは難しく、見直すべきだとの考えが出てきた。ただ、そうした取り組みは遅れているのが実情だ。

非正規雇用者の急増の下で旧来の雇用慣行が続いたことは、賃金の伸び悩みに大きく影響した。厚生労働省が発表した賃金構造基本統計調査によると、2021年時点で正規雇用者の賃金を100とした場合、非正規雇用者は67.0にとどまっている。

一方、時系列に確認すると、非正規での就業を選ぶ理由は多様化している。総務省が発表した2021年の労働力調査詳細集計によると、正規の仕事がないから非正規雇用を選ぶ人の数は減少傾向だ。一方、自分の都合のよい時間に働きたい人は増えている。専門的な技能を活かすために非正規雇用を選択する人も多い。