そうした状況が続くと、生産も減少し雇用も制限されて、国民経済はどんどん萎縮していくので、何らかの対策が必要になる。コロナ禍は2020年初頭から始まっているが、トランプ前大統領はコロナ禍を「心配しないでよい」と公言し、マスク、ワクチン接種にも冷淡で、疫病防止に反する政策をとっていた。

20年11月の選挙に勝利したバイデン大統領の民主党政権は、コロナ禍の影響をもろに受けてしまった。翌年1月に大統領に就任したバイデン大統領は、就任から約2カ月後の3月に1兆9000億ドルもの経済対策法案に署名した。共和党の金持ち優遇策のもとで、労働者や中流階級が相当に傷んでいたので、それを助けようという意図だったのだろう。大盤振る舞いにすぎるという批判は、民主党寄りのエコノミストにもあった。少なくとも物価に対する効果はてきめんで、消費者物価はそこから一気に跳ね上がった。

その上昇が一段落しかけた頃、今度はロシアによるウクライナ侵攻が始まった(22年2月24日)。欧米や日本はこれを許さず、ロシアに経済制裁を科した。ロシアは世界にエネルギーを供給する資源国だが、そのエネルギーの不買政策をとったので需給の逼迫から世界の石油・天然ガスの価格が高騰した。

バイデンのせいかトランプのせいか

その結果、物流コストなどの増大が物価上昇をさらに一段、押し上げた。いわゆる「コストプッシュ・インフレ」だ。日本の卸売物価上昇も、これを理由に始まっている。どこの国民にとっても痛手だが、ロシアの軍事侵攻を許さず戦争を避ける道は経済制裁しかないと考えられたからである。当然、物価高の痛みは予測できたが、欧米や日本は目先数年の経済よりも民主主義と正義を守り抜くことを優先したのだ。

こうしたなか、共和党は今回の中間選挙戦で「バイデンが物価高騰を招いて、国民を苦しめた」という論陣を張っていた。だが、コロナ禍で停滞しかけた需要を財政出動で手当てする必要はあったし、ロシアに経済制裁を科したのもやむをえなかった。私はバイデン大統領を気の毒に思う。今回の選挙戦で共和党が圧勝すると民主制の根幹が崩れる可能性があり、インフレ批判を利用して専制政治が出現する恐れもあった。

なお、金融市場は期待込みで価格が形成されており、金融拡大の後に引き締めがあると、株式、債券価格が下落する局面がある。それを予期しないで、大損する人も出てくるかもしれない。金融市場の影響での景気後退が懸念されるが、現在はコロナ禍の回復過程で実物的な需要は不足しないので、国民経済全体の景気後退(リセッション)を心配する必要はあまりないと考える。