東京五輪をめぐっては、組織委員会の元理事が収賄容疑で逮捕されるなど、さまざまな不祥事が起きた。組織委アドバイザーを務めた澤邊芳明さんは「公共事業に関わる人のリテラシーに問題があった。日本が主催する国際イベントとして、2025年には大阪万博が控えている。今回の失敗を繰り返してはいけない」という――。
2018年5月3日、関西国際空港駅に停車する2025年大阪・関西万博ラッピング列車
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです

汚職事件に発展するとは思っていなかった

僕はアドバイザーという立場で東京オリ・パラのお手伝いをさせていただきました。もちろん無報酬です。

拙著『ポジティブスイッチ』(小学館)には、「大会が1年延期になって我が社は数億円の損害を出した」と書きましたが、それはただ、当初予定されていた、五輪期間中の企業パビリオンの計画が全部飛んでしまったからです。僕たちはそのデジタル演出の仕事をお受けしていました。もちろんこれは企業との契約で、組織委員会としての関与といったものではありません。

東京2020オリンピック・パラリンピックは、新国立競技場の設計案変更、エンブレムの盗用、コロナ禍による延期、開会直前の関係者の辞任・解任ラッシュ……と史上まれに見る難産となりました。

また、大会から1年が経った今年8月には組織委員会の元理事が収賄容疑で逮捕されるという前代未聞の事件にも発展しました。

東京五輪・パラリンピック組織委員会理事の高橋治之氏(=2020年3月30日、東京都内)
写真=AFP/時事通信フォト
東京五輪・パラリンピック組織委員会理事の高橋治之氏(=2020年3月30日、東京都内)

汚職疑惑に関しては、スポンサー関連で出てくるとは正直、まったく思っていませんでした。スポンサー契約を仲介して中間マージンを受け取るのは通常のスポーツイベント等ではふつうにあることです。

ただ、組織委員会の理事がそれをやってしまうと話は別です。理事は「みなし公務員」で、公務員と同等の立場になり、贈収賄罪の対象になってしまいます。(逮捕された)高橋元理事は悪いと知っていてやったのではなく、ただ知らなかっただけだったのかもしれません。

だけ、と言っても、自分たちの常識が国家事業レベルでもまかり通ってしまうと考える認識の甘さこそが大問題です。

リテラシーが昭和のまま残ってしまっている

僕は一連の不祥事はこうした公共事業に関わる人や公の立場にある人のリテラシーの問題だと考えています。

単純に言うと、洗練されていない。準備期間中から相次いだ、失言問題なんかもそうでしょう。ジェンダー意識をはじめとして、リテラシーが昭和のまま残ってしまっている気がします。

僕は中枢にいたわけではないので細かい部分までは分かりませんが、意思決定のプロセスが、中途半端に民主的で中途半端に密室的で、「船頭多くして船山に上る」の状態になっていた印象は否めません。

いっそ思いっ切り透明化をはかるか、それか強烈なリーダーシップを持つ人物がぐいぐい引っ張ってゆくか、どっちつかずになるよりはどちらかに振り切った方がよいでしょう。

あと、これは一経営者として痛感したことですが、財政的に余裕の少ない国がやるべきイベントではないですね。オリンピックを景気のバネにするのは、いまの日本のフェーズでは無理があったのではないでしょうか。