デメリットについて議論が尽くされたとは言いがたい

もっともマイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせる、いわゆる「マイナ保険証」は、すでに昨秋から導入されている。しかし今年4月に寄稿した記事<「肥満で不健康」では就職すらできなくなる…現役医師がマイナ保険証に深い懸念を示す理由>でも述べたとおり、政府がさかんに強調する利便性の一方で、そのデメリットや危険性について議論が尽くされたとはいまだに言いがたい状況だ。

むしろ政府がデメリットについてはまったく語らないまま「利便性」や「安全性」だけを強調すればするほど、その陰に潜む、各人の健康データ(Personal Health Record)をはじめとした個人情報の漏洩リスクや、個人の利益には一切つながらない「利活用」の思惑があぶり出されて見えてきてしまうのだ。

もし政府が本気ですべての国民に行き渡らせたいと考えているのであれば、このような「持っていなければ不便になる」ような状況に国民を追い込むのではなく、指摘されている問題点や疑問、不安に対して、これまで以上に十分かつ丁寧な説明を時間をかけて行っていかねばならないことは言うまでもない。

そもそも現行法では廃止することはできない

その上で、今回の政府方針について私見を述べるが、そもそもこの「2024年度秋に現在の健康保険証の廃止を目指す」という政府の目標は、政府がいかに強引に推し進めようとも思惑通りには絶対に進まないだろうと考える。

それはマイナンバーカードの取得申請は、あくまでも個人の行動に委ねられるものであるからだ。政府は、健康保険証廃止の時期が来てもマイナンバーカードを取得しない人などに対しては、働きかけを進めていくと同時に、何らかの対応を検討していくと、これまた“脅し”ともとれる強引な姿勢を示しているが、取得しようとしない人に罰則を適用することは、現在の法律上は不可能だ。あくまでも「お願いベース」にならざるを得ないのである。

また「健康保険証の廃止」というのも現実問題としてかなりハードルが高いだろう。「廃止」というセンセーショナルな単語にはどうしても敏感に反応してしまいがちだが、冷静に考えれば法改正をしなければなし得ない。

事実、今年の5月25日に行われた「第151回社会保障審議会医療保険部会」において、水谷忠由厚生労働省保険局医療介護連携政策課長は以下のように述べている。少し長いが重要な説明なので議事録より当該部分を抜粋する。