今の日本の政治家たちの手段となるのは怖い

【木村】きちっと説明すれば、橋下さんの言う理屈については理解してもらえると思いますよ。賛同を得られるかどうかは別ですが、議論にはなるでしょう。今は、よくわからないまま集団的自衛権の話が進んでいる状態で、理屈が通らないから「先制攻撃じゃないですか?」と追及されると、しどろもどろになってしまう。

それと同時に、具体的に何をやるための議論なのかを明確にしないと、国民を巻き込むのは困難でしょう。今の日本でグループ専守防衛論は怖いと思います。日本が攻められなくても、他の国が攻撃されたら立ち上がるという話ですから、巻き込まれる可能性の方が高い。相当に具体的で慎重な議論が必要です。

【橋下】理屈ではグループ専守防衛論を展開しましたが、現実的には僕も、今の日本の政治家たちにそういう手段を与えるのは怖い。憲法9条の改正を声高に叫んでいる政治家たちは、ウクライナ侵攻において、一般市民の国際秩序を守るためには一般市民の犠牲もやむなし! 命より大切なものがある! 自由、独立を守るために戦うことは尊い! どれだけ一般市民の犠牲があろうとも戦闘員が死ぬまで戦うことに文句を言うな! というようなことも叫んでいますからね。

憲法の魂をしっかり発揮してくれる政治家に期待

ですから、いざというときのために自衛の手段は幅広く政治家に与えて、彼ら彼女らが間違った手段の選択や一般市民を犠牲にするような自衛権の行使をした場合には、ブレーキをかけられる仕組みを整えておくべきという論に至るのですが、本当にそれで大丈夫なのか……。正直葛藤しているところです。最後は政治家への信頼ですが、僕が政治家時代に見てきた日本の政治家の真の姿をもとに考えると、今はとてもじゃないけど自分の家族の命を預けようとは思わないですね(笑)。

だから、いざ有事になって実際に自衛権を行使する場面において、一般国民の命や自由を最大限に尊重する憲法の魂をしっかり発揮してくれる政治家たちにこそ、国会においてグループ専守防衛論を冷静、合理的に積み上げて、国民の理解を深めてほしいところです。

【木村】橋下さんは、はっきりするのが好きなんですかね(笑)。

橋下徹、木村草太『対話からはじまる憲法』(河出文庫)
橋下徹、木村草太『対話からはじまる憲法』(河出文庫)

【橋下】そう?(笑)。こういうの曖昧にしといたほうがいいのかな。

【木村】そういうことはあると思いますよ。だから政治家は、集団的自衛権のことをはっきりとグループ防衛とは言わない。改憲もしようとしない。私もはっきりさせた方がいいと思っているので、そういうところでは橋下さんと気が合っちゃうんですよ。

【橋下】だってそこを曖昧にしちゃうと、国民にとって不幸ですよ。考え方や見解の違いはあったとしても、はっきりさせないと。

【木村】立場を明確にして話すことによって、相手は反論もできるわけで。

【橋下】そうですね。そこからみんなに考えてもらいたい。

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