上級生への返事は「はい or YES」

そのため、防大の生活には細かいルールがたくさんあります。新入生が数日で覚えるのは不可能な量で、ルールを覚えるのにも神経をすり減らしました。帽子の置き方、布団の畳み方、本棚の整理などにもそれぞれルールがあり、自己流で置くと上級生から「どうして言われたことができない!」と厳しい指導を頂くことになります。

自分なりに思うところはあるものの、まずは組織に順応する必要があるので、返事も「はい or YES」しか回答できず、自信満々な「はい」や申し訳なさそうな「はい」を、私は繰り返していました。

基準も厳格です。「だいたいこんな感じかな」と曖昧な感じで行うと、上級生が定規を持ってやってきて「ここは何センチだ?」と問いかけるので、必ず守る必要があります。

「軍隊は要領」と言いますが、まさに防大も同じでした。こうした細かなルールの生活を、いかに少ない時間と労力で、要領よくこなせるかが生き残るために大切だったのです。器用な人は早い段階で指摘されなくなりますが、不器用な人はひたすら苦労します。

頑張っても褒めてもらえない環境に心が折れる

私の防大生活は、たとえるならスーパーカーのレースに、農家のおじさんから借りてきた軽トラックで挑んでいるようなものでした。どんなにチューンアップや改造しても、軽トラックはもともと660ccしかないのでドンドン引き離されていきます。

競争するイメージのイラスト
写真=iStock.com/erhui1979
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防大には「努力して当たり前」という不文律があるので、軽トラでレースを一生懸命頑張っても上級生や同期には「お前は頑張っているな」とは言ってもらえません。「こんなの簡単だろ!」「できないほうがおかしい!」と言ってくる人たちもいるので、私の心はすぐに折れたのでした。

そうして希望と夢に目をキラキラにして入校した私ですが、「寮生活」「運動」「学力」と落ちこぼれとなり、しょんぼりした犬のような顔になりました。

そういった経緯もあり、防大に入校してから1カ月ほどで「もう辛いから辞めようかな……」と考えるようになりました。あれだけ自信満々で強くなると誓ったのに「自分には何一つ才能がない」とネガティブモード全開になってしまったのです。