藤井風は令和の「流し」

生配信の動画では視聴者のリクエストに応え、ありとあらゆる歌をちょびっとずつ歌うコーナーがある。その領域の広さったら。

KING GNUやDISH//の曲、宇多田ヒカルの新曲も完璧にカバー。ABBAにカーペンターズ、ボブ・ディラン、MJにジャミロクワイ、テイラー・スウィフトからBTSまで、海外アーティストの歌も、新旧・年代を問わず歌える風。

もちろん70~80年代の昭和歌謡曲やムード歌謡もお手の物。「木綿のハンカチーフ」「かもめが翔んだ日」「勝手にしやがれ」「ワインレッドの心」なんて、おじさんとおばさんは絶対反応するわな(私が反応)。

他にもサザエさんやちびまるこちゃんのテーマソング、ドンキホーテの店内でかかる販促歌にリーブ21のCMソング、タケモトピアノCMの一節など、風が歌うとなんだかムーディで素敵に聴こえるから不思議だ。

曲やアーティストへのリスペクトを忘れず、即興のすごさと風アレンジの心地よさは、ぜひ一度体験してほしい。

ということで、冒頭の「流し」につながる。私の中では藤井風は令和の「流し」。全ジャンル・全世代OKの凄腕「流し」なのだ。25歳だが、中身は60代、団塊かバブル世代じゃないかと思うほどのレパートリー。

ライブなのに観客はみなリラックス状態

カバー力が凄すぎる話ばかりではいけない。藤井風のオリジナルの曲も本当に耳心地がよくて、耳心地? 聞き心地? とにかく副交感神経を優位にさせる曲だ。

英語の歌も多いが、個人的には日本語の歌の方が全身の細胞にいきわたるような気がする。さらにMVで見せるダンスもキレがあって美しい。そもそも二枚目でスタイルもよく、神は風にすべて与えたとしか思えず。

生で観て聴いたらすごくいいだろうなと思っていたら……ライブのチケットを入手できたのだ。一生分の運を使い果たした。もう二度と当たらないかもしれない。

(以下、ツアーのライブ内容に触れています)

世田谷にある会場だったが、ステージ上は「風の家」風味。やはりリラックスした家着で登場した風は、部屋の中央にあるピアノを奏でて歌う。着替えるときは脱ぎ散らかしたり(ズボンをぶん投げる)、「マイ・ガーデン」と呼ぶプランターにじょうろで水をぞんざいにあげたり、徹底した「アット・ホーム」感。ライブに来ているのに観客全員がリラックス状態。心の奥は大興奮なのに、なんだか心地いいわけよ。そんなライブがあるのか、と心底驚いた。

ミュージシャンたちはステージでロック音楽を演奏しています
写真=iStock.com/Nutthaseth Vanchaichana
※写真はイメージです

舞台上でAmazonからキーボードピアノが届いたら、待望のリクエストコーナーへ。会場で回収したリクエストカードから数曲、寝そべりながら演奏。個人的にはDISH//の「猫」、キリンジの「エイリアンズ」、オリジナル・ラブの「接吻」がぐっときた。

風が観客の中から「ピュア」に見える人を直接選び、リクエストに応えるという粋なはからいも。ピュアに見られた男子も大喜びだったに違いない。