一方、防衛省などの場合、戦車や潜水艦、飛行機など、金のかかる装備が山ほどあり、巨額の予算の一部を削られたら役人のクビが飛ぶ話になってしまいます。戦前も軍艦一隻作るのに、何人もの海軍大将の首がかかっていました。彼らは予算を争奪するために人生をかけていたのです。

防衛省でなくても、たいていの役所は大規模予算を計上しており、「その予算を認めない」と言われたら、土下座に近いようなありとあらゆる手段を使って主計局に頭を下げなければいけません。

ところが法制局にはそんな大掛かりな予算がまったくないので、財務省に頭を下げなければならない弱みはありません。

財務省主計局が内閣法制局にできる嫌がらせは、せいぜい残業後のタクシー代をケチるぐらいでしょうか。

大臣クラスの政治家も頭が上がらない

四、法案審査への拒否権

本来、内閣法制局は調査して意見を言うだけの役所のはずです。しかし、新しい法律を作ろうとするときに、内閣法制局から「それは今ある法律と矛盾します」と指摘されたら、たいていの国会議員は「できないんだ」と納得してあきらめてしまうのです。大臣クラスの政治家でもこの調子です。むしろ自民党政治家など、役人から聞いてきた知識で有権者に説教を垂れるような人が増えてきました。そんな人にとって法制局の見解は、とてつもない権威です。

国会議事堂
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本来の法制局は、新しい法律を作るときに、現行の法令のうち矛盾するものを調査する役所であるはずなのに、逆のことをして、現行の法律をたてに立法を阻害しています。

そして「太政官以来の法令がすべて頭に入っているらしい法制局に従わなかったら、矛盾が生じた時に責任をとらなければならない。それは困る」と大物政治家たちは及び腰になってしまうのです。

衆参の法制局では議員立法も作れない

有権者の代表である国会議員が、しょせんは税金で雇われた公務員にすぎない官僚にいいように流されないように、そして本来の仕事である立法を支えるために、衆参両院にも法制局があります。しかし、権威は及びません。

一九八九(平成元)年、社会・公明・民社・社民連の四党が参議院法制局に依頼して消費税廃止法案を作成し、たった二カ月足らずで仕上げましたが、国会審議で七カ所の法案の不備や誤記を指摘されてしまいました(西川伸一『知られざる官庁 内閣法制局』五月書房、二〇〇〇年、二二五頁)。「内閣法制局に頼らないと法律は作れない」という幻想を拡大強化した事件でした。

なお法曹家の間では、しばしば「あの法律は議員立法なので重大な不備がある」と言われるそうです。