第1次政権から提唱していた「インド太平洋」という概念

安倍元首相は第1次政権下の07年、インド国会で「二つの海の交わり」と題して演説し、インド太平洋という戦略概念を早くも提唱している。冷戦中、米国は中国やパキスタンと、インドは旧ソ連との関係を深め、米印関係は冷え込んだ。両国間には地政学上、根強い不信感が横たわっていた。

「私たちは今、歴史的、地理的にどんな場所に立っているのだろうか。それは『二つの海の交わり』が生まれつつある時と、ところに他ならない。太平洋とインド洋は今や自由の海、繁栄の海として一つのダイナミックな結合をもたらしている。従来の地理的境界を突き破る『拡大アジア』が明瞭な形を現しつつある」と安倍元首相はインドに手を差し伸べた。

もともと04年のスマトラ島沖大地震をきっかけに発足した日米豪印4カ国は「安全保障ダイヤモンド」を形作っていく。今では基本的価値を共有し、法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋」を目指すようになった。「クアッド(4カ国)」と呼ばれ、今年2月には第4回外相会合、3月に首脳テレビ会議、5月に首脳会合が開催されている。

安倍元首相の提唱する「インド太平洋」の戦略概念は当初「あいまいで分かりにくい」とあまり重視されなかった。しかし中国は軍事的に拡大し、南シナ海や東シナ海で領土的な野心をあからさまにしだした。「インド太平洋」はオーストラリアやバラク・オバマ米大統領時代に「アジア回帰政策」を打ち出した米国を巻き込んでいく。

安倍元首相がインドで「特別な政治家」と言われる理由

インドの英字経済紙エコノミック・タイムズは「安倍晋三がインドにとって特別な存在であり続ける理由」という追悼記事の中で「安倍元首相は普通の政治家ではない。日本が21世紀の経済大国としてだけでなく、インド太平洋地域の地政学的課題に貢献できる国として発展するためのビジョンを育んできた稀有けうな政治家であった」と絶賛している。

印英字紙フィナンシャル・エクスプレスは「インド太平洋とクアッドの父」とその功績を称え、「安倍首相(当時)の下、日本とインドは初めて防衛・外交の2+2閣僚対話を行い、海洋安全保障、クアッド、インフラ分野での連携が強化された。インド太平洋においてインドは中国の覇権とバランスをとるための重要なプレーヤーとして認識された」と指摘した。

ナレンドラ・モディ印首相は「傑出した日本の指導者、比較できないグローバルな政治家、印日友好関係の偉大なチャンピオンである安倍晋三氏はわれわれの世界からいなくなってしまった。日本そして世界は偉大なビジョンを失い、私は親愛なる友人を失った」と安倍元首相の死を嘆いた。インドは国を挙げて一日中、喪に服した。

「安倍元首相との話し合いは知的刺激に満ちていた。新鮮なアイデアに満ち、ガバナンス、経済、文化、外交政策その他さまざまな課題に関し貴重な見解を持っていた。クアッド、東南アジア諸国連合(ASEAN)主導のフォーラム、インド太平洋構想、アフリカを含めたインド太平洋での印日協力、災害に強いインフラ連合などすべて安倍元首相の貢献によるものだ」