戦略のセンスを磨くためにはいくつかのアプローチのうちで、読書はもっとも「早い・安い・美味い」方法である。吉野家みたいなものだ。本格的なフランス料理のフルコース(つまり、商売丸ごとを自ら経験して、試行錯誤を通じてセンスを磨く)には及ばないけれども、相対的に低コストで、時間をかけずに、日常のルーティンとして生活に取り込めるというのが読書の素晴らしいところだ。スポーツに例えれば、毎日痺れるような試合はできないが、ジムでの筋トレや走り込みならばルーティンとして取り組める。読書は戦略ストーリーを構想するための筋トレであり、走り込みである(ところで、僕はスポーツが嫌いなのだが、ジムに習慣的に行き筋トレをするのはわりとスキである。10年以上、週3回程度は筋トレしているのだが、せっせとトレーニングをしているとときどき知り合いに「キミ、その筋肉どうするの?」といぶかしがられる。自分でも不思議である)。

この連載では、因果論理の引き出しを増やし、センスを磨くのに役立つと考えている本を紹介し、そこから僕が得た知的興奮や洞察を読者の方々と共有したい。その先に、ストーリーとしての戦略をつくるというのはどういうことか、そのために必要となる思考のセンスとは何か、そうしたことの本質をぼんやりとでも浮かび上がらせることができれば、という目論見である。

もちろん僕の個人的なセンスなり趣味嗜好に引きずられた話なので、本の選択からして好みや体質に合わない方もいるだろう。その辺、ご満足いただけるかどうかはお約束しかねる。ただし、この連載を読んでも、「すぐに役立つビジネス・スキル」が身につかないということだけはいまから約束しておきたい。

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