ウクライナ戦争はこれからどうなるのか。ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一さんは「戦争が長期化して困るのは、ウクライナではなくロシアだ。経済制裁でロシア国民は疲弊しており、このままなら『側近によるプーチン暗殺』というシナリオも見えてくる」という――。

※本稿は、大前研一『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

トルクメニスタンのセルダル・ベルディムハメドフ大統領と会談後、共同記者会見に臨むロシアのプーチン大統領=2022年6月10日、モスクワ
写真=EPA/時事通信フォト
トルクメニスタンのセルダル・ベルディムハメドフ大統領と会談後、共同記者会見に臨むロシアのプーチン大統領=2022年6月10日、モスクワ

プーチン氏の誤算①「ウクライナ軍の強さ」

前回、ロシアのプーチン大統領が今回のウクライナ武力侵攻に踏み切った背景を、「ロシア脳」を使って様々な角度から説明してきた。ここからは、今後の展開についての予想である。

侵攻当初、プーチン氏の頭の中には、「極めて短期間でゼレンスキー大統領の首を取り、全土を制圧してロシアに都合のいい傀儡政権を樹立する」というシナリオが描かれていたはずだ。だが、実際は、そうは問屋が卸さなかった。

プーチン氏が読み間違えたのは、まずウクライナ軍の想像以上の強さである。兵士の士気がロシア軍よりも明らかに高いうえに、彼らはロシア軍に対抗できるだけの攻撃能力を持つ武器を保持していた。

そのひとつが、トルコ製のドローン「バイラクタルTB2」である。2020年のナゴルノ・カラバフ紛争でアゼルバイジャンとトルコ側が、それまで負け続けていたアルメニアとロシアに勝利したときの勝因が、トルコのバイラクタルTB2だった。

ウクライナはこのことから、ロシア軍は軍事ドローンに弱いことを見抜き、トルコからこれを80機ほど購入して準備していたのである。そのバイラクタルTB2の攻撃によって、ロシア軍は序盤で戦車を含む車両32台を失うことになった。首都キーウに向かう車列の途中を攻撃され、ロシア軍は前にも後ろにも身動きがとれなくなってしまったのである。

さらにウクライナ軍には、アメリカが提供する対空ミサイル「スティンガー」と、対戦車ミサイル「ジャベリン」もある。また、イギリスとスウェーデンが共同開発した対戦車ロケット兵器「NLAW」も西側諸国から供給されているのだ。

プーチン氏の誤算②「ゼレンスキー大統領の人気」

プーチン氏の誤算はまだある。それは、いつも同じTシャツ姿で髭も剃らぬまま連日カメラの前に立ち、悲壮な表情で「私はキーウから逃げない。生きて話ができるのはこれが最後かもしれない」などと、心に刺さる演説を繰り返すゼレンスキー氏の人気が一気に上がったことだ。

ロシアの軍事侵攻からわずか1週間で、ゼレンスキー氏の国民支持率は30%から90%へ急上昇し、あっという間にウクライナ国民の希望の星となってしまった。それどころか、今や世界中が彼を英雄として賞賛している。