なぜセブン‐イレブンはコンビニ業界で首位を守り続けているのか。生みの親で、セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文さんは「私たちは1970年代の創業当時から、顧客の感情的・心理的な価値を重視してきた。だから、おにぎり、銀行、コーヒーといった新しいサービスを始められた」という――。

※本稿は、鈴木敏文『鈴木敏文のCX入門』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

米国ミシガン州ロチェスターのダウンタウンにあるセブン‐イレブン
写真=iStock.com/RiverNorthPhotography
※写真はイメージです

「モノは所有」「コトはサービス」ではない

よく、「モノからコトへ」の変化が話題になるとき、こんな説明がされることがあります。

モノ消費とは、消費者が商品(モノ)の所有に価値を見出す消費のあり方であるのに対し、コト消費とは、ヨガ教室などのアクティビティ、各種のイベント、旅行などのサービス産業において、所有では得られない体験や経験に価値を見出す消費のあり方である。

しかし、これは、コトの意味合いを狭くとらえているように思えます。

わたしは、長年、セブン&アイ・ホールディングスという流通企業の経営に携わってきました。その間、わたしがよく使ったのは、次のような表現でした。「単にモノを売るのではなく、モノをとおして、お客様に満足していただけるようなコトを提供する」

コトとは、モノ(商品)がお客様にとって、そのとき、その場で、どのような意味をもつかという関係性のことであると、わたしは考えます。

「コト消費」は、心理的・感情的な価値である

商品には、もともと、モノ的な価値とコト的な価値があります。モノ的な価値とは、そこにヒト(買い手)がいようといまいと、モノそのものがもっている価値のことをいいます。服でいえば、デザイン、色や柄、素材、丈夫さや体温保持といった機能、性能などの客観的な価値を意味します。

一方、コト的な価値とは、モノとヒトとの間で、買い手がそのとき、その場でのモノとの関係性に対して感じる主観的な価値です。服でいえば、目で見ても、試着しても、何も感じるものがなければ、何も関係性は生まれません。その服に、どこか共感・共鳴・共振するところがあり、試着してみてワクワク感を感じたり、購入して着用し、心の高揚感を感じれば、関係性が生まれます。

たとえば、セブン&アイグループのPB(プライベートブランド)商品のセブンプレミアム。女性のお客様の中には、週末、一週間頑張った自分へのごほうびに購入するという「ごほうび消費」をされる方がいるそうです。これなどは、まさに、コト消費といえます。

モノ的な価値が物質的・物理的な価値であるのに対し、コト的な価値は心理的・感情的な価値と表現することができるでしょう。