自分たちで考える職員が生み出した施策も町の魅力に

移住希望者にとっては空港まで迎えに来てくれるなど親身になって移住支援をしてくれる町の職員もこの町の魅力のひとつだ。

おそらく直接的にも人口増に寄与しているのではないかと私は思うのだが、それも写真の町を貫き通してきたことで町が得たものである。

というのは、人口が底を打ち、写真甲子園も軌道に乗り出した2005年に写真の町を提案し、共に運営してきた企画会社が倒産。以降は町の職員がすべてを自分たちで企画、運営してきており、その経験が職員を変えてきたのである。

お金がないならアイデアで勝負、前例がないならパイオニアになろうと考え、それが移住支援だけでなく、他自治体にない数多くの施策につながっているのだろう。

例えば、これから子どもを持とうという家族なら、2006年に始まった赤ちゃんに地元で作られた手作り、木製の椅子を贈る「君の椅子」という制度に感動するのではないか。

子どものうちから本物に触れてほしいと、よくあるオフィス家具ではなく、手作りの椅子、テーブルやソファが置かれた公共施設を見たら「ここで子育てしたい」と思うかもしれない。ファミリーの中には子育て環境や教育環境で東川町を選んだという人たちも少なくない。

お得感ではなく、移住する人の心に響くような施設、施策がたくさんあり、そうしたものが複合的に人口増につながっている。

やりがいを感じながら働く職員を見て、東川町で働きたいという人も増えているという。職員の働き方でさえ人口増につながっているのである。

隈研吾事務所がオフィスを構えるワケ

さらに写真を通じて得た各界へのネットワークも東川町の財産になり、町に魅力を付加している。

写真甲子園やフォトフェスタでは、普通に行政職員として働いていたら会わない人に会い、協業する。つながりは写真を通じて、写真家やアーティストはもちろん建築家、企業などへと広がっていく。

そのひとつの例が建築家・隈研吾氏との縁だ。

2021年、東川町が家具・クラフトの振興を目的に4月14日を椅子の日と制定した際、隈氏とコラボして椅子の製作や、コンペを開催した。

最近では、東川町役場近くで建設が行われているシェアオフィス「KAGUの家」の設計を担当している。ここには隈研吾建築都市設計事務所がサテライトオフィスを設けるという。

オープン前のKAGUの家の内部。壁が構造体となっているのが特徴。地元で作られた家具が使われている。
筆者撮影
オープン前のKAGUの家の内部。壁が構造体となっているのが特徴。地元で作られた家具が使われている。
せんとぴゅあⅡに展示してあった隈氏デザインの椅子。
筆者撮影
せんとぴゅあⅡに展示してあった隈氏デザインの椅子。

2023年には町内のキトウシ森林公園内に隈氏外観デザインの保養施設もオープンする予定で、町の中心部にデザインミュージアムの構想もある。

写真甲子園に協賛、協力、サポートする30余りの企業、大学などとの縁も大きな財産だろう。2019年からは東川オフィシャルパートナー制度を創設、企業との連携強化を図ってもいる。

「映え」の裏にある文化へのこだわり

「写真映え」という言葉のはるか以前から、写真を通じて映える町を作ろうとしてきた東川町。

映えることを単に見た目だけのものと思う人もいるだろうが、東川町がこだわってきたのは見た目の背後にある、文化という見えないものだ。それが町の複合的な魅力を生み、人口増につながっているのである。

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