健康な他人の糞便を移植するという方法も

今、急速に検証が進んでいるのは、ディスバイオーシスを起こした患者さんの腸管に、善玉菌優勢のバランスのよい腸内細菌を移植する方法です。ここでドナーとして使われるのは健康な人の糞便です。この方法は、再発性・難治性の大腸潰瘍を生じるクロストリディウム・ディフィシル菌(CD)という腸内細菌感染症が、健常な人の糞便移植(FMT)により非常によく改善したのが始まりです。

佐藤信紘、佐藤 和貴郎『人はなぜ老いるのか』(世界文化社)
佐藤信紘、佐藤和貴郎『順天堂大学の老年医学に学ぶ 人はなぜ老いるのか』(世界文化社)

順天堂医院での便移植療法では、難治性・再発性の潰瘍性大腸炎患者さんにまず抗菌薬を服用してもらい、現在の腸内細菌を極限まで減らしていきます。患者さんの腸では腸内細菌のバランスが乱れ、悪玉菌が増加して細菌の多様性が低下しているため、これをできるだけ殺菌し腸をクリーンにするわけです。

次に、ドナー便から生成した腸内細菌溶液を内視鏡を使って大腸腔内に注入し、腸内フローラの改善を図ります。

順天堂大学の石川大らはこの「AFM療法」により、難治性の潰瘍性大腸炎を治療して良好な成績を報告しています。また、うつ病や自閉症などが改善されたという事例が出ています。

IBSや慢性便秘、肥満などのメタボリックシンドローム、多発性硬化症にも糞便移植が行われ、著効例も報告されています。

しかし、他人の糞便を消毒しないで移植するのですから安全だとはいえません。外国ではFMTを受けた人が多剤耐性細菌感染症で死亡した例も報告されており、健常な人のドナー便の菌解析が必須であると思われます。

便移植療法は医療行為であり一般的ではありません。また、せっかく健常な菌を移植しても再び悪玉菌がはびこれば、何回も便移植が必要になります。やはりライフスタイルを整えることが最も大切なことなのです。

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