なぜ強いストレスは腹痛を引き起こすのか。そのメカニズムは「脳腸相関」と呼ばれている。順天堂大学名誉教授の佐藤信紘さんと非常勤講師の佐藤和貴郎さんの共著『順天堂大学の老年医学に学ぶ 人はなぜ老いるのか』(世界文化社)より、その仕組みを紹介する――。
腹痛で空腹のビジネスマン
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脳と腸管は互いに連絡を取り合っている

「脳腸相関」とは、神経系が介在して脳と腸管が互いに連絡し合い、それぞれの機能に影響し合うことです。

たとえば、脳でストレスを感じると、自律神経系が刺激を受けて、腸管運動が亢進して下痢や腹痛を起こします。また、食事をして腸管が膨張することで満腹感を感じること、食べた物から便が作られ直腸に充満すると、その刺激が骨盤神経と迷走神経を通じて脳に行き排便運動が起こることも、脳腸相関、つまり脳と腸の双方向通信(クロストーク)によって起きているのです。

この脳腸相関に腸内細菌が関係しているということが、明らかになってきました。

ストレスが胃炎や腹痛を引き起こす理由

脳腸相関の概念では、脳から腸管へ向く系を「遠心路」といい、逆に腸から脳の方に向く系を「求心路」と呼んでいます。

遠心路では、ストレスを感じると脳の視床下部から下垂体に向かってCRFというストレスホルモンが分泌されます。これに反応して、副腎からアドレナリンとコルチゾールというホルモンが分泌され、おなかに作用します。

コルチゾールは胃粘膜や大腸粘膜に作用し、知覚過敏を誘発します。これが「ストレスで胃が痛い」とか「胃が張って食べられない」状態を引き起こします。胃酸分泌を亢進させたり、胃粘膜の血流障害や胃の運動異常と関係し、ストレス性胃炎の原因となるのです。

交通事故で頭部に外傷を受けて緊急搬送されてきた患者さんが、受傷後数日で吐下血を起こすことに、よく遭遇しました。緊急で胃カメラを行うと、胃に大きな潰瘍ができていました。ラットを用いた動物実験では、頭部外傷後の回復期に胃出血が必発し、ストレス潰瘍と命名されていました。脳への物理的損傷、外傷性ストレスが、胃粘膜の血流を途絶させ胃潰瘍を起こしていたのです。